「呼気1リットル中0・50ミリグラム以上」は高過ぎる―。アルコールの体内濃度を危険運転致死傷罪の要件とする「数値基準」を巡り、異論が出ている。昨年12月に法制審議会(法相の諮問機関)の刑事法部会が決めた要綱案に対し、被害者団体は「強い失望を覚えた。より厳しい0・30ミリグラムにするべきだ」との声明を出し、16日、法相に要望書を手渡した。部会でも委員の遺族らから同様の意見が出ていた。
被害者団体は「飲酒・ひき逃げ事犯に厳罰を求める遺族・関係者全国連絡協議会」。共同代表は、2003年11月に飲酒ひき逃げ事件で次男の隆陸(たかみち)さん=当時(24)=を亡くした国東市武蔵町の佐藤悦子さん(74)が務めている。
要望書では、「0・50ミリグラム」は酒気帯び運転の基準値の3倍以上に当たるとして「社会通念に照らし、あまりに甘い」と批判した。
刑事法部会の資料によると、世界保健機関(WHO)は注意力、分別ある判断能力、忍耐力の低下といった症状が出始める値として「0・30~0・50ミリグラム」を示している。要望書は「なぜ酩酊(めいてい)状態が生じるとされる0・30ミリグラムを採用しなかったのか」と疑問を呈した。
事故後に警察が駆け付けて、加害ドライバーの呼気を調べるまで一定の時間がたつため、その間に体内のアルコール濃度が低下する点も強調した。「事故当時は、より高い濃度だった可能性がある。数値基準は厳しく設定するべきだ」と訴えた。
基準値に満たなくても走行の状況次第で危険運転罪の対象になるものの、数値が低下するまでドライバーが逃走する可能性を懸念。「逃げ得」を許さないため、アルコール等影響発覚免脱罪の最高刑を拘禁刑12年から同14年に上げるように要望した。
この日は佐藤さんのほか、1999年11月に飲酒トラックによる事故で幼い娘2人を失った井上保孝さん(75)と郁美さん(57)夫婦=ベトナム在住=らが東京・霞が関の法務省を訪れた。要望書を受け取った平口洋法相は「いただいた意見を真摯(しんし)に検討する」と応じた。
終了後、佐藤さんは「誰もが納得する数値基準を期待していたが、法制審の案は高過ぎる。飲酒運転がだめだと国民に知らせる法改正を望む」と話した。
要綱案は近く法相に答申される。法務省は年内に数値基準を盛り込んだ自動車運転処罰法改正案を国会に提出する方針。
■「0・50ミリグラム」は法医学者の見解が根拠
刑事法部会が数値基準案を「0・50ミリグラム以上」に決めた最大の根拠は、昨年6月の第2回会合に出席した大阪大医学部の松本博志教授(法医学)のヒアリングだった。
アルコールの影響に詳しい松本教授は、危険運転罪で処罰するべき「道路交通の状況に応じた運転操作が困難な心身の状態」として0・50ミリグラムが妥当とした。WHOの資料が示す通り、0・30ミリグラムで酩酊(めいてい)状態になる人がいることを認めつつ、「一番高い値(0・50ミリグラム)なら、症状は誰であっても出る」と説明した。部会で刑法学者3人がこの見解を支持した。
異論もあった。被害者遺族で唯一の委員だった波多野暁生さん(48)=東京=は「飲んだら乗らないは国民的な合意。0・50ミリグラム以上は一般感覚と大きなギャップがある」と異議を唱えた。被害者支援に取り組む合間利(かんまとし)弁護士(54)=千葉県弁護士会=は「0・30ミリグラム以上」を数値基準にするように求めていた。