大分市の時速194キロ交通死亡事故で適用要件の不明確さが浮き彫りになった危険運転致死傷罪について、法制審議会(法相の諮問機関)の刑事法部会は25日、スピード違反と飲酒運転の「数値基準」を盛り込んだ改正の要綱案を取りまとめ、閉会した。一般道は最高速度の50キロ超過、高速道では60キロ超過に決めた。飲酒は呼気1リットル当たり0・50ミリグラム以上のアルコール濃度とした。
法制審は来年2月にも平口洋法相に答申。政府は来年の通常国会で自動車運転処罰法の改正を目指す。
要綱案によると、例えば法定速度50キロの道路を100キロ以上で走行して人を死傷させれば、危険運転罪の対象となる。基準に満たなくても「準ずる速度」なら、交通量や道路形状によっては適用できる規定も入った。法務省は「10キロ未満の差」を想定している。
現行の同罪は「進行を制御することが困難な高速度」「アルコールの影響で正常な運転が困難」と規定。事故前後の状況で判断するべきだとの考えから数値を入れていない。大分市の194キロ事故など各地で曖昧な運用が続き、改善を促す声が高まった。
現行規定も残るため、数値基準以下の事故でも捜査機関が「制御困難」「正常な運転が困難」と認定すれば、同罪に問われる。
要綱案はドリフトやウイリー走行も新たに危険運転罪に加えた。
部会はこの日が第8回会合。委員12人で採決し、要綱案に賛成が11人、反対が1人だった。
被害者遺族で唯一委員を務めた東京・葛飾の波多野暁生さん(48)は閉会後に取材に応じ、「法律と一般感覚のギャップを是正する上で、数値基準を設定したことは大きな一歩。数値を入れる以上、適正に測定できるインフラの整備などにも万全を期してほしい」と求めた。
数値について、波多野さんはより低く定めるように部会で求めてきた。全国の被害者団体からも「もっと厳しい基準にするべきだ」との訴えが上がっている。
<メモ>
大分市の時速194キロ死亡事故は2021年2月9日午後11時ごろ、大分市大在の一般道(法定速度60キロ)で発生した。当時19歳だった男(24)が乗用車を時速194キロで走らせ、交差点を右折中の乗用車に激突。運転していた同市坂ノ市南、会社員小柳憲さん=当時(50)=を死亡させた。大分地検は当初、男を過失運転致死罪で在宅起訴。遺族が署名活動を展開した後、より刑罰の重い危険運転致死罪に切り替えた。昨年11月の一審大分地裁判決は危険運転罪を認め、男に懲役8年を言い渡した。福岡高裁の控訴審は来年1月22日に判決を予定している。