残暑厳しい8月下旬。玖珠町在住の俳優馬越友梨(17)は福岡市内に足を運び、初主演映画「誰(た)が為(ため)にフィルムはまわる」の完成披露上映会に参加した。
会場には、多くの観客が席を埋めていた。「夢のよう。この景色を絶対忘れたくない」。うれしさをかみしめると同時にこれまでの悔しく、ほろ苦い経験が脳裏をよぎった。
俳優の道に憧れ始めたのは8歳の時。初めて見るテレビドラマの登場人物たちがキラキラと輝いて見えた。小学6年生の時、同町のミュージカルスタジオへ。
主宰する俳優、タレントのあべこ(53)は「努力家で周囲が騒いでいても、熱心に練習をしていた」と振り返る。演技力が必要な個性的な役を任されるまでになった一方、ステージの中心に立つことはなかった。
「いつか主役を演じたい」。自分磨きを続け、2022年に芸能界デビューのチャンスが巡ってきた。
TBSが放送したオーディション番組「私が女優になる日_シーズン2」に応募。5500人の中から、ファイナリスト7人に選ばれた。
グランプリはドラマ主演が約束されていた。約半年間、テレビ出演のため大分と東京を何度も往復。無我夢中で歌や演技の審査に取り組んだものの、主役の座はつかめなかった。
その後、ファイナリスト7人によるアイドルユニットとしてCDデビューを経験した。「俳優の卵として集まったのに、アイドルとして活動することに戸惑いと抵抗があった。何かにつながるはずだと信じ、がむしゃらに頑張った」
悔しさを糧に、アイドル活動のほか、精力的にオーディションに参加した。
転機は翌23年、「誰が為に―」に出合ったことだ。
福岡市の新興芸能プロダクションが「何者でもない者たちにこそ、夢をつかめる場所を」と映画プロジェクトを立ち上げた。母親の勧めで第1弾のオーディションを受け、念願の主役を勝ち取った。
作品は、映画作りに挑戦する高校生らが人生に向き合う青春群像劇。役どころは葛藤を抱えながら夢を追う映画監督だった。周囲の期待を背に受け、自分自身と重なる部分が多い主人公を演じきった。これまでの苦労が少しだけ報われた。
ウェブのショートドラマやテレビCMに出演するなど、活躍の場は徐々に広がる。目標は朝の連続テレビドラマ小説。交流サイト(SNS)を毎日更新し、知名度アップに努めるなどチャンスを手にするための準備も怠らない。
来年はうま年。「私の年ですね」。馬のように芸能界を力強く駆ける。
うまこし・ゆり 2008年生まれ。玖珠町出身、在住。22年、TBSのオーディション番組「私が女優になる日_シーズン2」の出演者に選ばれ、デビューした。大分市を舞台にした短編映画「デイズ~かけがえのない日々~」にも出演している。映画「誰が為にフィルムはまわる」は劇場での上映日は未定。
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多くのファンを魅了するエンタメ業界。大分県出身者の中にも、活躍している人や、夢の舞台を目指す「金の卵」がいる。仕事の楽しさや苦労、きっかけなど、後に続く若者たちに向けた「声」を届ける。