【共生リアル―新たな隣人たち】ルポ③ 土葬墓地代替地提案の高平区、追い込まれ「苦渋の決断」

高平区の自宅で台所に立ち、蛇口の水を見つめる衛藤清隆さん=11月中旬、日出町南畑

 「この水が山から来てるんや。飲料水であり、風呂や洗濯にも使う」
 日出町の市街地から車で20分。山あいの南畑高平区で暮らす町議の衛藤清隆さん(76)は11月中旬、自宅台所で蛇口のレバーを操作しながら説明した。
 イスラム教団体「別府ムスリム教会」の土葬墓地整備計画は当初、集落の南西2・5キロの民有地で進んだ。住民は生活用水を地下水に頼っている。もし墓地が一帯の水を汚し、琴釣川、能原池と伝って水源地に流れ込んだら…。
 住民は暮らしの安全を脅かされる懸念から断固阻止に立ち上がった。
 ただ、交渉が1年半を超えた頃、大きな譲歩に動く。「場所を移してくれんか。そこなら水が流れ込まず、何とか我慢できる」
 750メートル北にある町有地を代替地として示す案―。
 「苦渋の決断だった」。当時の思いを聞くと、衛藤さんはにこやかな調子を一転させ、声を硬くした。

■「絶対反対」の本心から遠く
 教会が高平区に対し、説明会を初めて開いたのが2020年2月。
 半年後の8月、高平区と隣接区は反対の陳情書を町議会に提出した。11月には一帯を含む南端地区の陳情も続き、12月定例議会でいずれも採択された。
 2件の陳情には計277人の署名を付けた。住民の示した多数の「ノー」が、教会の前に大きく立ちはだかるはずだった。
 ところが―。
 教会は12月、町に対し、早期に建設許可を出すよう求める要請書を出す。2028人の署名には町民203人も含まれた。主張は平行線をたどり、問題解決は遠のいた。
 衛藤さんは振り返る。「町は教会に寄り添っている感じがした。いよいよどうしようもなかった」。場所変更の提案は「絶対反対」の本心からほど遠い妥協に他ならなかったが、やむを得なかったという。

■無に帰した当事者同士の合意
 計画地の見直しが突破口になり、高平区と教会は23年5月、立地協定に至る。その後、当事者同士が何とかたどり着いた合意は結果として無に帰す。
 計画の是非が町長選の争点に浮上し、反対を掲げて初当選した安部徹也町長は「民意が示された」と払い下げを取りやめたからだ。
 前町政は分筆、鑑定といった事前手続きを進めていた。教会は「町長が代わっても町は町だ」「約束をほごにされた」と反発した。
 一方、衛藤さんは墓地ができないに越したことはないとの立場から前向きに受け止めた。ただ、訴訟問題に発展するのではないかとの心配が生まれた。昨年の9月定例議会では懸念を安部町長に直接ぶつけた。
 計画は今、暗礁に乗り上げ、集落を揺るがした騒動はいったん収まっている。
 一連の出来事は、集落の住民たちの目にどう映ったのだろうか―。
 衛藤さんは「今の時代、土葬墓地自体に抵抗感がある」と答え、少し間を空けて付け足した。
 「イスラム教徒っちゅう知りもしない人たちが話を持ってきたのも、なおさら引っかかった。突然現れてつくります、とか。もういい加減、落ち着きてえ」

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