法務省が法制審に危険運転罪の改正試案提示 数値基準「一般道50キロ超過」「呼気0.50ミリグラム以上」

危険運転致死傷罪見直し案

 大分市の時速194キロ交通死亡事故で適用要件の不明確さが浮き彫りになった危険運転致死傷罪について、法務省は9日、スピード違反や飲酒運転の「数値基準」を盛り込んだ改正試案を法制審議会(法相の諮問機関)の刑事法部会に示した。一般道は最高速度を50キロ超過、高速道では60キロ超過による死傷事故を処罰対象とする。飲酒はアルコール濃度が呼気1リットル中0・50ミリグラム以上とした。
 政府は来年の通常国会で自動車運転処罰法の改正を目指しており、部会は次回の会合で意見をまとめる。
 現行法は「進行を制御することが困難な高速度」「アルコールの影響で正常な運転が困難」と規定。要件が曖昧なため、大幅な速度超過や多量の飲酒があっても適用されないケースが多発し、各地の被害者遺族が明確化を求めてきた。
 改正試案によると、例えば最高速度50キロの国道や県道は、時速100キロ以上から一律に「危険運転」となる。最高速度80キロの高速道路なら140キロ以上。
 基準に満たなくても10キロ未満の範囲なら、道路形状や交通量に応じて処罰できる規定も入った。
 飲酒は血中濃度なら1ミリリットル中1・0ミリグラム以上。ビール大瓶2本程度で基準値に達するという。
 この日は東京・霞が関で第7回会合があった。これまでに「最高速度を40キロ超過」「呼気0・25ミリグラム以上」などより低い数値案も出ていたものの、法務省は高い基準で試案を出した。
 また、ドリフト走行やウイリー走行を新たな処罰対象にするため、「ことさらにタイヤを滑らせたり、浮かせたりして進行の制御が困難な走行」も要件に追加した。

■たたき台2案のうち高い数値を選択
 危険運転致死傷罪で処罰する「スピード違反」「体内アルコール濃度」の数値基準案が9日、明らかになった。法務省はたたき台とした2案のうち、高い数値を選んだ。最長で拘禁刑20年という法定刑を踏まえ、より「高度の危険性」に限定できる基準を設定したとみられる。
 法務省の2案は、A案が「一般道の制限速度を40キロ超過」「呼気1リットル当たりのアルコール濃度0・25ミリグラム以上」―などだった。最終的に提示したのはB案で、それぞれ「50キロ超過」「0・50ミリグラム以上」を採用した。
 両案ともに自動車工学やアルコールの専門家の知見を反映させた案だったが、議論した法制審議会刑事法部会での意見は割れた。
 9月下旬に開かれた第5回会合の議事録によると、被害者支援に携わる合間利(かんまとし)弁護士(54)=千葉県弁護士会=は「60キロ規制の一般道を100キロ以上で走ることがどれだけ危険かは誰でも分かる」として、A案を求めた。飲酒は世界保健機関(WHO)の資料を根拠に「0・30ミリグラム以上」で運転に支障が出ると強調した。
 交通事故の被害者遺族でただ一人委員を務める東京都葛飾区の波多野暁生さん(48)もA案を支持した。
 一方で、刑事事件に精通する弁護士の2人は、A案、B案ともに「基準として低い」と反対した。危険運転罪の処罰範囲が過度に広がることへの懸念が念頭にあったとみられる。
 3人の刑法学者は「危険運転罪を根拠付けるのは、生命・身体への高度の危険性。本来は個別の状況で判断するべきだ」などと言及した。ただ、「無謀極まりない運転」に適用できない事態が繰り返されないよう数値基準の導入には賛同し、より抑制的なB案に「合理性がある」などと述べた。
 B案であっても、一般道を時速百数十キロで暴走して人を死傷させるといった悪質運転は、反論の余地なく厳罰の対象となる。適用要件の曖昧さを一定程度排除できることは間違いない。試案に沿って法改正が進めば、危険運転の処罰の在り方はこれまでと大きく変わるだろう。

<メモ>
 大分市の時速194キロ死亡事故は2021年2月9日午後11時ごろ、大分市大在の一般道(法定速度60キロ)で発生した。当時19歳だった男(24)が乗用車を時速194キロで走らせ、交差点を右折中の乗用車に激突。運転していた同市坂ノ市南、会社員小柳憲さん=当時(50)=を死亡させた。大分地検は当初、男を過失運転罪で在宅起訴。遺族が署名活動を展開した後、危険運転罪に切り替えた。昨年11月の一審大分地裁判決は危険運転罪を認め、男に懲役8年を言い渡した。福岡高裁の控訴審は来年1月22日に判決を予定している。

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