「こんな事があった」人生をゆがめられた人々の10年

「こんな事があった」の一場面(ⓒ松井良彦/Yoshihiko Matsui)

 東日本大震災から10年が経過した福島県を舞台に、原発事故で人生をゆがめられた人々を描いたドラマ。
 2021年夏、被災者のアキラ(前田旺志郎)は、住んでいた仮設住宅から行方をくらまし、高校にも通わず、ホームレスのような生活を続けている。母親(里内伽奈)を原発事故の後に亡くし、電力会社社員だった父(波岡一喜)も、除染作業に従事していて音沙汰がない。
 友人の真一(窪塚愛流)は父(井浦新)や母(大島葉子)と暮らす。アキラの近況を心配しているが、「電力会社で給料をもらっているのに、仮設住宅で暮らそうとするなんて」と言い放つ母にいらだちを覚えていた。
 5月現在、福島では約2万4千人が家を追われ、今も避難を続けている。当事者ではないと「こんな事があった」のをすっかり忘れているのに気づかされる。
 なかなか癒えない心の傷と、「見捨てられている」という行き場のない怒り―。スクリーンに映し出されるのは被災者の心の叫び。色を失ったモノクロ画像が、彼らの喪失感をぐっと引き立たせる。
 福島県の人々の痛みをどれだけ直視できるのだろうか。胸が詰まる思いがする一本だ。

 シネマ5で25日(土)~31日(金)の午後0時45分。30日は同8時15分も上映する。

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 「大分合同新聞ムービーアワー」は厳選した映画をお届けするプロジェクト。テーマや話題性を吟味した作品を週替わりで上映します。

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