【日出】「♪名も知らぬ遠き島より 流れ寄る椰子(やし)の実一つ」―。日出町川崎の海岸にヤシの実が漂着した。島崎藤村作詞の唱歌「椰子の実」の舞台となった愛知県田原市の団体が、歌にちなんで沖縄県・石垣島から流した。同市内には読み方は違えど日出町(ひいちょう)がある。関係者は「ヤシの実がつないだ縁。二つの日出町として交流できないだろうか」と夢を膨らませる。
「椰子の実」は昭和初期にヒットし、文化庁の「日本の歌百選」にも選ばれている。田原市の観光協会「渥美半島観光ビューロー」によると、1898年夏に東大生だった柳田国男(民俗学者)が同市に滞在中、伊良湖岬でヤシの実を拾い、そのエピソードを聞いた親友の藤村が詩にしたとされる。
歌の場面を再現しようと、同ビューローは前身の渥美町観光協会時代の1988年、交流のあった石垣島を「遠き島」に見立ててヤシの実を流すイベントを始めた。38回目の今年は6月19日に84個を海に投じた。
日出町で見つかったのは8月1日朝。貸別荘「Sakura Beach Garden(サクラ ビーチ ガーデン)」前の海岸で、経営者の桜井高志さん(61)と客が気付いた。
直径約20センチ。金属プレートが取り付けられ、「拾われた方はご連絡ください」との記述があり、同ビューローに電話した。
桜井さんは「海岸にカブトガニやウミガメなどの死骸は流れ着くが、ヤシの実は初めて。約1200キロ離れた石垣島から、どうやってたどり着いたのかロマンあふれる話」と感慨深げに話した。
同ビューローの中村匡・専務理事兼事務局長(68)によると、これまで3929個を流し、156個が国内の海岸などで確認された。田原市を含む渥美半島では4個。大分県内は初めてという。「日出町は城下カレイやソニー・太陽のスタンドマイクを通じて知っていた。一緒にできることはないか検討したい」と語った。
<メモ>
田原市は愛知県南西部の太平洋に突き出た渥美半島に位置する。人口は約5万8千人。農業産出額は全国2位、トヨタを核とした自動車関連産業が集積している。市南部にある日出町は人口288人。渥美半島観光ビューローによると、遠州灘から昇る日の出が町名の由来という。