―危険運転致死傷罪に盛り込む「数値基準」の素案が法制審に示された。
「A案に賛成している。飲酒を呼気1リットル中0・50ミリグラム以上のB案にすると、『少しくらいの飲酒運転なら危険運転ではない』という誤ったメッセージになる」
―高速度では数値基準に「準ずる」スピードで、「重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度」も危険運転罪に加える案になった。
「数値基準を1キロでも下回ったら適用できない懸念から盛り込まれたと思う。『準ずる』とは、数値基準のマイナス10キロ程度を想定しているという。実質的な危険性を測る規定によって、悪質な高速度事故の取りこぼしを生じさせない趣旨だろう」
―今回の法改正の方向性をどう捉えているか。
「厳罰化というよりは明確化と思う。議論は危険運転罪にするべき事案について適用の揺らぎをなくすべきという点から出発した。大分市の時速194キロ死亡事故(2021年2月)をはじめ、全国各地で誰が見ても危険な運転なのに、捜査機関が危険運転罪の立証に多くの人と時間を割かざるを得ない状況がある。法が曖昧なためで、こうした問題を改善するのが目標だった」
「娘の命を奪った故意の赤信号無視についても条文の改正を求めたが、かなわなかったのは率直に言って無念」
―現行の条文は「赤信号を殊更に無視して運転」と規定されているが。
「『殊更に』という文言は加害者の内心。立証が難しく、適用範囲をいたずらに狭めていると考えている」
―被害者遺族として法制審で何を訴えているのか。
「危険運転罪という名称からすると、危険な運転をすべて捉えると思うのが自然だが、実情は全く違う。ほとんどが過失運転致死傷罪になる。被害者や遺族は、量刑が軽いことだけでなく、『過失運転』というラベリング(分類)に不当性を感じる。法律家に向き合ってほしい点だ」
―今後の焦点は。
「一足飛びに完全な法律は作れない。数値基準が導入されたら数年以内に運用状況を検証し、必要な見直しをしてほしい。衝撃的な事故がきっかけで議論を始めるのではなく」
はたの・あきお 東京・葛飾区在住の税理士。2020年3月14日夜、自宅近くで赤信号無視の軽ワゴン車にはねられ、長女耀子さん=当時(11)=を失い、自身も大けがを負った。危険運転罪の見直しを訴え、昨年2~11月の法務省有識者検討会で委員を務めた。今年3月からは法制審議会刑事法部会で議論に参加している。