【竹田】竹田市会々の割烹(かっぽう)・ホテル「一竹(いっちく)」の事業を市内竹田町のホテル「トラベルイン吉富」が承継した。同じ城下町エリアで営業してきた両者は「気持ちよく任せられる」「地域に愛されてきた伝統の宿をこの地に残したい」と語り、新しいスタートを切った。
一竹は鮮魚店として創業。1962年に割烹を構え、2004年にはリニューアルして旅館を併設した。3代目の後藤美保さん(75)が女将(おかみ)を務め、地域住民やJR豊後竹田駅に近い立地からビジネスや観光の客が利用してきた。
トラベルイン吉富は1919年に創業。現在は3代目の井上徹郎さん(46)、真由子さん(47)夫婦を中心に切り盛りする。登山客をターゲットにした企画や夕食を定額で提供するサブスクリプションサービスに挑戦している。
大分銀行竹田支店が今年2月、地域の持続的成長を事業者などと目指す「地域ビジョン」の一環で宿泊業者の会合を開催。その場で後藤さんが事業承継の悩みを行員に打ち明けた。
後日、同支店の行員が井上さん夫婦に承継を打診。徹郎さんは「一竹は、おもてなしの文化、竹田名物の頭料理の提供をはじめとする食文化が詰まっている。残していきたい」と即決した。
8月29日、正式に一竹の経営権が吉富に移行。従業員約20人の雇用は維持され、後藤さんは女将として残った。若女将となった真由子さんは「後藤さんは優しさにあふれるもてなしのプロ。従業員にも平等に接する。生涯をかけてのれんを守りたい」と意気込む。
後藤さんは「若い2人に気持ちよく承継できた。できる限りの手伝いをしたい」と協力を惜しまない。同支店の村上栄俊次長(42)は「双方の英断で竹田の文化が残る施設の廃業を回避できた。好事例を増やせれば」と話した。