飲酒のたたき台は、6月の法制審議会第2回会合で大阪大医学部の松本博志教授(法医学)が示した世界保健機関(WHO)の基準を参考にしている。
呼気1リットル当たりのアルコール濃度が0・25ミリグラムを超えればドライバーに交通ルールを無視するなどの症状が現れ、0・50ミリグラムに達すれば注意力など「運転に必要な認知機能」に支障が生じる。これらは人種、性別、酒の強さを問わずに当てはまる―という。
一方で、道交法違反の酒気帯び運転は0・15ミリグラム以上。罰金刑などが科されて運転免許は停止処分となる。被害者遺族で法制審刑事法部会委員の波多野暁生さん(47)=東京=は6月の第2回会合で、社会一般が飲酒運転と捉えている「0・15ミリグラム以上」を数値基準にするよう求めた。
議事録では「(飲酒運転自体が)規制を意に介さない態度。(0・15ミリグラムが)一般社会の理解と納得に適合すると思う」と述べた。
法制審では他の委員からも「0・30」や「0・55」など、さまざまな数値が提案された。
体内のアルコール濃度は時間がたつと低下する。被害者団体からは、「逃走して飲酒検知のタイミングをずらそうという考えを助長するのでは」という懸念も出ている。
■酒気帯びの3倍超、不適用も
2001年に厳罰を科す危険運転致死傷罪が創設されたきっかけは、1999年に東京・東名高速道で起きた飲酒トラック2児死亡事故だった。しかし、現行法では体内にアルコールが残っていてもただちに危険運転罪に問われるわけではなく、「正常な運転」ができていたかどうかがポイントになる。
2006年8月に福岡市の「海の中道大橋」で起きた3児死亡事故は、裁判所の判断が揺れ動いたケースだった。
一審は、被告の車が湾曲した道路を道なりに進行し、幅の狭い場所でも接触事故を起こしていないことを重視。事故は飲酒の影響ではなく、脇見をしたことが原因だとして、過失運転致死傷罪を適用した。
これに対し、二審は被告が相当な量の酒を飲んでいた事実を踏まえ、前方の車が間近に迫るまで気付かずに事故を起こしたと指摘。危険運転罪を認めている。
警察が測定する呼気アルコール濃度は、危険運転罪でも一つの指標になるが、酒気帯び運転の基準値の3倍を超える0・50ミリグラム以上に達しても適用されなかった事例もある。