大分市の時速194キロ死亡事故、29日に控訴審初公判 危険運転罪の成否が再び争点に

時速194キロ死亡事故の争点と一審の判断

 2021年2月に大分市大在の一般道で発生した時速194キロ死亡事故で、危険運転致死罪に問われ、一審大分地裁の裁判員裁判で懲役8年(求刑懲役12年)を言い渡された被告の男(24)の控訴審が29日、福岡高裁で始まる。検察側と被告側の双方が控訴しており、一審に続いて危険運転罪の成否が争われる見通し。
 想定される主な争点は、危険運転罪の対象となる▽進行を制御することが困難な高速度▽妨害目的の運転―に該当するかどうか。
 何キロオーバーなら成立するといった速度要件がないため、昨年11月28日の一審判決が根拠としたのは、検察側が示したプロレーサーの走行実験結果や視覚研究者の証言だった。
 判決は検察側の主張に沿って、わだちのある現場の道路を猛スピードで通ると「車の揺れは大きくなり、ハンドル操作の回数が多くなる。運転者の視野は狭くなる傾向がある」と言及した。
 弁護側は走行実験が事故から3年以上経過し路面が変化していた可能性があることや、車両も被告が乗っていた高性能の海外車と異なることなどを指摘。一審は「実験は事故当時の車の揺れや運転操作を具体的に推認し得るものではない」と述べたものの、一般論として高速度によって運転が不安定になる事実を認めた。
 その上で「ひとたび操作ミスが起これば、瞬時に車線を逸脱し、立て直しが困難となる。被告が法定速度を守っていれば、事故を確実に回避できた」として、制御困難な高速度に当たると認定した。
 一方で「妨害目的」については「右折する被害車両の通行を妨げる積極的な意図がない」と退けた。
 検察側は控訴審で「妨害目的」があったことを訴え、量刑を見直すように主張する見込み。被告側は運転ミスを対象とした法定刑の軽い過失運転致死罪の適用を求めるとみられる。

■検察側「妨害目的」認定要求へ
 控訴審の争点の一つは、検察側が訴える「妨害目的」の成否だ。
 一審で検察側は「自分の運転行為によって、周囲の車の安全な通行を妨げることが確実」との認識が被告にあったなら、妨害目的は成立する―との論理を展開した。
 一方で、弁護側は「安全な通行を妨げることを積極的に意図していない。被告には妨害目的に及ぶ動機がない」と反論。大分地裁は弁護側の主張を支持し、妨害は成り立たないと結論付けた。
 地裁は「進行制御困難な高速度」による危険運転罪で有罪判決を出したものの、検察側は不服として福岡高裁に控訴した。高裁でも、あくまで妨害目的の認定を強く求めるとみられる。
 猛スピードの事故に検察側が妨害目的を適用しようとするケースは他県でも続いている。このうちの一つは、時速160キロ超の車がオートバイに追突した宇都宮市の死亡事故(2023年2月)で、今後、裁判員裁判を控えている。
 刑法学者によると、立法時、典型的なケースとしては幅寄せや割り込みなどの「あおり運転」を想定していた。大分のように直進車が右折車に激突して起こった事故で、妨害目的を認めた裁判例はこれまでないという。司法がどこまでを処罰範囲とするのか注目される。

■遺族「異常な行為を反省して」
 事故から4年7カ月で迎える控訴審初公判。事故で亡くなった小柳憲さんの姉、長(おさ)文恵さん(59)=大分市=は今月上旬、大分合同新聞の取材に応じ、「被告に求めるのは異常な運転行為を反省し、罪を償ってほしいだけ」と現在の心境を明かした。
 一審で示された証拠によると、被告の男は海外製の車を購入してから40日余りで事故を起こし、その間の走行距離は4千キロを超えていたという。長さんは「連日、猛スピードで走り回っていた。弟が犠牲にならなくても、他の誰かが被害者になるか、被告自身が単独事故で命を落とした可能性があったはず」と考えている。
 事故後、男は遺族に謝罪の手紙を出し、一審大分地裁の公判では遺族側の席に頭を下げ「申し訳ございませんでした」と口にした。
 だが、長さんはいまだに受け入れる気持ちになれないという。「彼には彼なりの苦悩があるかもしれないが、私たちには家族を失った苦しみがある。忘れないでほしい」と話した。

<メモ>
 事故は2021年2月9日午後11時過ぎ、大分市大在の一般道(法定速度60キロ)で発生した。当時19歳だった被告の男は、乗用車を時速194キロで走らせ、交差点を右折してきた乗用車に激突。運転していた同市坂ノ市南、会社員小柳憲さん=当時(50)=を出血性ショックで死亡させた。

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