64歳でカンボジアに渡り、1年間書道を教えた女性がいる。県内の高校で長年、書道教諭を務めてきた佐藤睦(むつみ)さん(大分市)。昨年8月から小学3年の孫娘の留学に合わせ、アンコールワット遺跡で有名なシェムリアップに滞在した。「孫も一緒でしたし、元気なうちにと踏み切りました」と笑顔で振り返った。
きっかけは、13年前のカンボジア観光旅行。町を歩いていると子どもたちからお金をねだられた。ガイドは「渡さないで。この子たちに必要なのは何もしないでもらえるお金じゃなくて教育です」と諭された。その言葉が強く心に残り続けた。
翌年、カンボジアで日本語指導のボランティアすると言う、当時大学生だった娘に同行。長期休みを利用して自身も現地の日本語学校で短期の書道指導を始め、定年後も続けてきた。
今回1年間の滞在で腰を据えた指導に取り組むことができた。小学校低学年から30代まで、日本が好きな生徒たちは、熱心に筆を走らせた。クメール文字は下から上に書くため、日本語とは筆順がまるで異なる。「僕はここが苦手です」と次々と手が挙がり、佐藤さんもやりがいを感じた。
教材は限られ、コピー用紙の裏紙を使い、墨液は薄め、一つのすずりを2人で使った。お手本は佐藤さんが毎回手書きで準備。そうして最後は自信を持って書きあげる生徒の姿を見ることができた。
町を歩けば「先生」と声をかけられ、帰国時には「いつ帰ってくるの」と尋ねられた。インターナショナルスクールに通っていた孫娘も、二十数カ国の子どもに囲まれ多様性を肌で感じ、英語も身に付けていった。
「カンボジアが大好き。自分ができる事で架け橋になりたい。日本の若い人にも関心を持ってもらえれば」。1年間の挑戦を糧に、経験を伝えていきたい考えだ。