大分市の時速194キロ死亡事故で適用基準の不明確さが浮き彫りになった危険運転致死傷罪の見直しに向けて、法相の諮問機関である法制審議会の刑事法部会は28日、第4回会合を開いた。一定の速度超過があった死傷事故に例外なく同罪を適用する「数値基準」の導入に、委員の多くが賛同した。「最高速度の2倍以上」と具体的な値を述べる人もいたという。9月以降の次回会合で、法務省はたたき台を示す。
会合は東京・霞が関であり、刑法学者や被害者遺族ら委員12人が出席した。議事は非公開。
法務省などによると、前回会合でヒアリングを受けた自動車工学の専門家は、最高速度の1・67倍以上で「事故の回避が難しくなる」との見解を述べた。
これらを踏まえて、多数の委員が「数値基準の導入は社会の納得を得られる」などと発言したという。「2倍以上」と言及した委員は、ヒアリングの内容を参考にしたとみられる。
一方で、慎重派もおり、「危険運転罪で処罰するべき高度の危険性を、最高速度の倍数で測れるのか」といった趣旨の指摘があったという。
現行の危険運転致死傷罪(拘禁刑20年以下)は「進行を制御することが困難な高速度」と規定し、数値は定めていない。
2021年2月に発生した大分市の時速194キロ死亡事故では、大分地検が当初、過失運転致死罪(拘禁刑7年以下)で加害ドライバーを在宅起訴。「納得できない」と遺族が声を上げると、地検が危険運転致死罪に切り替えた。
適用基準を明確にする法改正の機運が高まり、法制審は今年3月から検討を進めている。
この日の会合では、車のタイヤを横滑りさせながら運転する「ドリフト走行」を危険運転罪の対象に加えるかも議論した。
■遺族「数値だけでは不十分」
一定のスピード違反を認めた交通死傷事故を例外なく危険運転致死傷罪で罰する「数値基準」の導入について、28日の法制審議会で賛成が多数を占めていることが明らかになった。ただ、課題もあり、被害者遺族で委員を務める波多野暁生さん(47)=東京=は「数値だけでは不十分。捉え切れないケースが必ず出る」と指摘している。
念頭にあるのは、福井市で2020年11月に起きた死傷事故。飲酒運転の乗用車がパトカーから逃げる目的で時速105キロで交差点に進入。右側から進行してきた車に衝突し、大学生2人を死傷させた。
福井地検は危険運転致死傷罪で乗用車の加害ドライバーを起訴した。だが、福井地裁は「(成立条件の)制御困難な高速度と認定するには合理的な疑いが残る」と退け、過失運転致死傷罪を適用して懲役5年6月の判決を言い渡した。
乗用車のスピードは法定速度(時速60キロ)の1・75倍。今後、仮に「2倍以上」という数値基準が導入されても下回ることになる。
法制審は飲酒運転にも数値を設ける方針で、体内アルコール濃度が呼気1リットル当たり「0・30ミリグラム」「0・50ミリグラム」といった基準が浮上している。福井の事故は0・35ミリグラムだったという。
数値基準を満たさなければ、「飲酒」「高速度」といった悪質な違反が複数あっても、危険運転罪が適用されないケースも考えられる。
こうした問題を解消するため、波多野さんは数値基準とは別に、ハンドルやブレーキの操作がままならない状況を自ら招く「対処困難な運転」を処罰する条文も求めている。「秋以降の法制審で、この課題をクリアできるかが重要になる」と話している。