【問う 時速194km交通死亡事故】法のジレンマ⑤ 「規定ない」危険運転適用を回避するケースも

危険運転致死傷罪が定められている自動車運転処罰法

 「極めて危険であることは明らかだが、規定がない」。大阪高裁は2015年7月、車の後輪を滑らせる「ドリフト走行」で集団登校の列に突っ込み、京都府八幡市の小学生5人に重軽傷を負わせた少年(事故当時18歳)に危険運転致傷罪を適用しなかった。
 高裁がいう「規定」とは条文に記された事故のタイプのことで、法律用語では「類型」と呼ばれる。
 危険運転は▽進行を制御することが困難な高速度▽飲酒の影響で正常な運転が困難▽ことさらに赤信号無視―など計8種類で、「ドリフト走行」を直接的に示すものはない。検察側は「進行の制御が困難」という文言に着目し、高速度の類型がこの事故に当てはまると主張した。
 高裁は「制御困難」の部分は認めたものの、事故を起こした際の時速40キロに満たないスピードは「高速度」とはいえず、全体として危険運転の類型には合致しないと判断した。少年は過失運転で有罪判決を受けた。
 危険運転罪への批判は、「制御困難」「正常な運転」といった曖昧な表現に向けられることが多い。加えて、ドリフト走行の裁判のように、例外を許さない厳格さを併せ持つことが事態を複雑にしている。

 01年に危険運転罪が制定された時、類型は5種類だった。しかし、事故に至る状況や交通違反のレベルはさまざま。「悪質な事故」を漏れなくすくい取ることは難しい。あおり目的で高速道路の本線で停車するなど当初の想定にないケースが起きると、法改正で書き加えてきた。
 現在開かれている法制審議会でも、大阪高裁の判決が議論を呼んだ「ドリフト走行」の追加を検討している。
 「法のつくりが悪い」。交通犯罪に詳しい元同志社大教授の川本哲郎氏(75)は類型で罪を限定する手法に否定的だ。「いくら事故のパターンを増やしても、こぼれ落ちるケースは出る。被害者や遺族が苦しむ実態は変わらない」という。

 仮に類型を示さず、処罰対象を幅広く「危険な運転」とすれば、悪質な事故の多くをカバーできるだろう。
 一方、法制審の元会長で、危険運転罪の創設や改正に携わった中央大の井田良教授(69)=刑法学=は、類型を必要だと考える。
 「何が対象か分からないような法律にして捜査機関や裁判所に処罰を委ねることは楽かもしれないが、それは法治国家ではない」
 裁量を広く認められた捜査機関による法の乱用を防ぐため、憲法には何が犯罪に当たるのかを明確に示す「罪刑法定主義」と呼ばれる鉄則がある。条文に書かれていないことを罰する不意打ちは許されない―。類型は、この考え方にのっとっている。
 井田教授は、救われない被害者が生まれることを踏まえた上で、法の宿命に言及した。
 「穴があれば、手作業で補修するかのように改正を重ねていく。それが刑法のあるべき姿だろう」

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