【別府】別府市鉄輪の老舗「冨士屋旅館」が今夏、現代版湯治を楽しめる「冨士屋ホテル」として新たな歴史を刻むことになった。主屋は明治期に建てられた木造建築で国の有形文化財に登録されている。建物の老朽化に伴い約30年前に旅館業ののれんを下ろしたが、施設を守ってきた安波治子さん(54)が「生まれ育った温泉宿を再開したい」と一念発起した。
旧冨士屋旅館は1898年の創業。木造2階の主屋と別棟に最大60人を収容でき、鉄輪温泉郷のにぎわいを支えた。1996年に旅館業をやめた後、2001年に主屋のほか敷地内の前門、石段、石垣がそれぞれ国の登録有形文化財に指定された。
父から維持管理を任された安波さんは主屋をギャラリーやイベントを開くスペースとして活用。コンサートや展覧会などを開く中で「訪れる人に、もっと長くこの場に滞在してもらいたい」との思いが募ったという。6年前に宿泊施設を復活させようと決断した。
ホテルは築約50年の別棟を取り壊して整備した。木造3階。断熱性と耐熱性を併せ持つ国産の直交集成板(CLT)を使用した。
客室は17室。各階に「大地」「森」「海」とテーマを設け、内装や照明で安らぎの空間を演出した。1階のレストランには温泉の噴気を活用した16基の蒸し釜を設置。食材を持ち込み調理することができる。
大浴場は源泉かけ流し。樹齢120年を超える梅の大木を眺めながら入浴できる「梅見の湯」と、蒸し湯サウナを併設した「竹瓦の湯」がある。
安波さんは「鉄輪で紡がれてきた湯治文化は、忙しい日々を送る人にとって健康を整えるのに最適だと思う。ゆっくりとした時間を過ごしてほしい」と話した。
オープンは7月12日の予定。ホームページや電話で予約を受け付けている。問い合わせは冨士屋ホテル(0977-66-3251)。