【臼杵】臼杵市井村の人気うどん店「甚兵衛」が3年4カ月の休業を経て営業を再開した。再開した店主の田口真浩さん(42)は、昨年がんで亡くなった初代店主、憲一さん(享年75)の長男。うどんに人生を懸けた偉大な父の遺志を継ごうと意欲に燃えている。
先代の憲一さんは20代で脱サラし、うどんの本場香川県の名店で麺作りを習い、1981年に市内新町でうどん店を開いた。
看板メニューはおろし天ぷらうどん。当初は「冷たいうどんなんか食べられるか」と言われていたが、人づてにおいしさが認められた。90年に親の介護のため現在の場所に店を移した。
妻の敦子さん(69)もあきれるほどうどん作りにこだわり続けた。「だしは見えんけんなぁ」、客に伝わりづらい難しさをよく口にしていたという。食べ始めは薄くても食後にちょうどいいうどんを追求した。
真浩さんは、高校卒業後すぐ父の下で修業を始めた。職人かたぎの厳しい教えや父に及ばぬ歯がゆさで悔し涙を流す日々。父と比べられることが怖く、店を離れては戻ることを繰り返した。2019年、家業を継ぐ決意を固め、父に頭を下げて店に戻った。
程なく、憲一さんが体調を悪くし、敗血症と診断された。家族全員で父親の介護をするため21年12月、店を閉めた。その後、前立腺がんも見つかり、約1年後、自宅で家族に囲まれて息を引き取った。
闘病中も甚兵衛の再開を望む父に真浩さんは背中を強く押された。「店を見守っていて」と言うと父は「分かった」とうなずいた。
父の死後、再開に向け奔走。今年4月、店を開けた。「待ってました」。常連の東利幸さん(42)=市内諏訪=は弾力のある麺を味わった。
添加物、化学調味料を使わず厳選しただしと、天候により配合を変える体に優しいうどん。「大切な人を連れてきたい」と思われる店を目指す。
「父と比べられることは、もう怖くない。今はたくさんの声を聞きたい」。晴れやかに語った。