韓国は日本から気軽に行ける海外として人気の観光地だ。定番は首都ソウルだが、地方都市も魅力を秘めている。中でも南東部にある慶州市は歴史と文化が色濃く残る。今年10月にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が開かれる予定で、注目を集めそう。3月下旬、韓国観光公社主催の報道向けツアーに参加した。
慶州市は、韓国第2の都市・釜山の金海空港から車で約1時間。人口は約26万人。10世紀前半まで千年続いた新羅王朝の都として栄え、街全体が「屋根のない博物館」と称されるほど見どころが豊富にある。
山の中腹にある世界遺産「仏国寺」と、「石窟庵」は新羅の仏教文化を象徴する史跡だ。
仏国寺は仏の世界を再現した石造建築が美しい。石段を上がると、大雄殿(本堂)の前に二つの塔が対峙(たいじ)して立っている。一般的な造りの釈迦塔に対し、斬新な構成の多宝塔からは新羅美術のレベルの高さがうかがえる。
数キロ先にある石窟庵は石をドーム形に組んだ石窟寺院。高さが3メートル以上ある本尊仏は朝日が当たるよう東向きに立っており、額の宝石が輝く光景は圧巻だという。
車で30分ほど走り、史跡公園「大陵苑」に着く。広大な敷地に大小さまざまな円形古墳23基が点在。緑あふれる穏やかな空間を散策できる。歩いて行ける「瞻星台(チョムソンデ)」は円筒形の天文台。27代女王時代に造られ、「東洋で現存する最古の天文台」という説もある。
近くには若者の支持を集める新しい観光スポットがある。「皇理団(ファンニダン)ギル」は伝統的な店を改装したレストランやカフェ、ショップがずらりと並ぶ。民族衣装の韓服を着て歩くと、写真映えもする。
食も旅に欠かせない。普門庭(ポムントゥル)で食べた「ユッケビビンバ」は、うまみのある牛の赤身肉と野菜、ごま油などの調味料が絡み合って絶品。店の李恵賢(リヘヒョン)さん(57)は「調味料はオリジナル。牛肉だけでなく他の食材もその日仕入れた新鮮な物を使っている」と教えてくれた。
伝統料理「韓定食」を提供する慶州校洞(キョドン)サンパプでは、テーブルいっぱいに並んだおかずと、肉料理プルコギを野菜で包んで味わった。
夜も見どころがたくさん。「東宮と月池」は新羅時代の王宮の別宮があった場所。池に反射する東宮は絶景だ。赤と緑が鮮やかな木造橋「月精橋(ウォルジョンギョ)」はライトアップされ、誰でも渡ることができる。
「屋根のない博物館」。その名の通り、どこを切り取っても美しい世界が広がっていた。タイムスリップしたような印象深い経験だった。
日本と韓国は今年、国交正常化60年を迎えた。韓国観光公社はAPEC開催を好機と捉え、観光客の増加を期待している。劉鎮鎬(ユジンホ)観光コンテンツ戦略本部長(57)は「歴史に文化、そして食と多くの観光資源があることをアピールしたい」と話した。