【問う 時速194km交通死亡事故】遺族の涙(2) 過失で起訴「なぜ」加害者以上に検事憎く

大分地検が入る大分法務総合庁舎=9日、大分市荷揚町

 大分市の時速194キロ交通死亡事故から1年5カ月が過ぎた2022年7月20日。仕事帰りに立ち寄ったドラッグストアの駐車場で、被害者遺族の長(おさ)文恵さん(59)の携帯電話が鳴った。
 「危険運転致死罪は適用しません」。大分地検からの連絡だった。加害ドライバーの男(23)はこの2日後、過失運転致死罪で在宅起訴された。
 自動車運転処罰法は、懲役刑が最長で20年に及ぶ危険運転致死傷罪と、7年以下の過失運転致死傷罪を定めている。事故の状況に応じてどちらが適用されるか決まり、科される刑罰には大きな差がある。
 「なぜ軽い罪に落としたのか」。県警は危険運転の容疑で書類送検していただけに、地検の対応に疑念が湧いた。

 今年3月にあった大分県庁での講演で、長さんは当時のやりとりを明かした。
 納得がいかず、「どうして過失運転なんですか」と何度も尋ねると、担当検事は「男の車が事故の直前まで真っすぐ走行していた」ことを理由に挙げた。
 猛スピードの事故を危険運転の罪に問うには、速度のせいで車を制御するのが「困難」だったと証明する必要がある。仮に、車が道路から飛び出したり、カーブを曲がり切れずに対向車線にはみ出したりしていたら「適用できたと思う」との説明だった。
 「裁判所に判断を委ねてほしい」と食い下がる長さんに、検事は「考え方は裁判官も同じ」と告げた。

 地検の決断の背景には、交通死亡事故の刑事裁判で慎重な判決が相次いだことがあったとみられる。
 21年以降では、三重県津市で時速146キロの車が起こした事故や福井市の時速105キロ事故などが危険運転罪で起訴されたものの、各裁判所は最終的に過失運転と認定した。
 捜査関係者は「各地で検察の主張が退けられたことで立証のハードルが高くなり、より確実な罪を選択したのではないか」とみる。

 釈然としないまま長さんは検事との電話を終え、すっかり暗くなった空を仰いだ。この日は亡くなった弟の小柳憲さん=当時(50)=の誕生日だった。
 「いったい、何のための法律なの。加害者以上に、検事が憎かった」。悔しさと怒りで眠れない夜が続いた。

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