大分東明高の元教諭で、退職後は歴史研究家として活動する軸丸浩さん(64)=大分市横尾東町=が、「十五年戦争と軍都・佐伯 ある地方都市の軍国化と戦後復興」(弦書房・税込み2200円)を出版した。1930年代に海軍航空隊が設置された佐伯町(当時)は、「軍都」と呼ばれていた。「小規模軍都は研究対象として手薄だった。地域から見た戦争の実態を明らかにすることができたと思う」と話す。
▽軍都佐伯への兆し▽軍都佐伯の形成▽日中戦争と佐伯▽太平洋戦争下の豊後水道▽終戦と佐伯―の5編と、資料編「水銀鉱山」で構成。国防上重要とされた豊後水道が軍事演習地となり、佐伯町に海軍航空隊が設置された経緯、町内の変容や戦意高揚のうねり、戦後復興期までを記す。
ある日の演習では、佐伯湾に全長200メートル以上の戦艦、空母をはじめ61隻もの艦船が停泊。航空隊設置が決まると、町では幹線道路や上下水道の整備、娯楽施設や新しい学校建設などが進んだ。一方で訓練中の航空機事故が相次ぎ、町民を不安にさせていた。軸丸さんは、海軍と地域の関わり方を佐伯市平和祈念館やわらぎの資料、当時の地元紙「佐伯新聞」などで丹念に追った。
2020年から「佐伯市誌」編さんに携わり、県内で軍都と呼ばれたのは佐伯町だけと知ったのが執筆のきっかけだった。調査中には、個人宅に眠っていた佐伯水銀鉱山に関する資料も入手。水銀は砲弾に使用されるなど重要な軍事物資で、国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センターに問い合わせると、貴重な資料であることが分かった。現在は同祈念館が保管している。
軸丸さんは「佐伯がどう国防に関わってきたか、地域で起こったことを詳細に書いた。本を読んで戦争の責任についても考えてもらえたら」と話している。