大分市の時速194キロ死亡事故で適用基準の不明確さが浮き彫りになった危険運転致死傷罪の条文改正に向けて、同事故の被害者遺族が共同代表を務める「高速暴走・危険運転被害者の会」は28日、鈴木馨祐法相宛ての要望書を出した。一定の速度超過で起こした死傷事故に一律に同罪を適用する「数値基準」の導入を求め、「基準が明確になれば、遺族が苦しむことがなくなるはず」と伝えた。
同罪の見直しを議論する法制審議会(法相の諮問機関)の刑事法部会が31日にスタートするのを前に、要望を届けた。
高速度の事故を対象にした現在の条文「進行を制御することが困難な高速度」について、被害者の会は「文言が曖昧で検察庁や裁判所で判断が割れる。その結果、消極的な運用になっている」と指摘。故意に悪質な運転をした加害ドライバーが、法定刑の軽い過失運転致死傷罪で処罰されていると訴えている。
法制審で検討予定の数値基準は、例えば「一般道を法定速度の2倍以上で走行し、死傷事故を起こした場合」などとする案。要望書では「法的安定性と国民の理解を得られる」と賛意を示し、導入に向けた法改正を促した。
一方で、基準を下回っても悪質な運転を処罰するために、現行の「制御困難な高速度」の規定は維持するよう要請。大雨の中、劣化したタイヤでカーブを猛スピードで走行した場合などは、基準以下であっても危険運転の罪を適用するべきだ―と強調した。
時速194キロ事故で、大分地検は当初、加害ドライバーの男(23)を過失運転致死罪で在宅起訴。「納得できない」とする遺族が2万8千筆を超える署名を提出した後、地検は危険運転致死罪に切り替えた。
亡くなった小柳憲さん=当時(50)=の姉、長(おさ)文恵さん(59)は、被害者の会の共同代表を務める。
28日に東京・霞が関の東京地裁で記者会見をした長さんは「遺族が声を上げなければ、危険運転致死傷罪にならないのは問題。法改正し、納得のいく形に近づけてほしい」と述べた。
<メモ>
大分市の事故は2021年2月9日午後11時ごろ、大分市大在の一般道(法定速度60キロ)で発生した。当時19歳だった男(23)=同市=が乗用車を時速194キロで走らせ、交差点を右折してきた乗用車に激突。運転していた同市坂ノ市南、会社員小柳憲さん=当時(50)=を死亡させた。大分地裁は昨年11月、危険運転致死罪で男に懲役8年の判決を言い渡した。検察側と被告側の双方が福岡高裁に控訴している。