遮断機も警報機もない「第4種踏切」での事故がなくならない。JR九州によると、県内には昨年9月末時点で同種踏切が26カ所ある。同12月29日には宇佐市江熊で特急と車が衝突しドライバーが負傷。大分市木佐上では2023年11月に歩いて横断していた男性が列車にはねられ死亡した。国は道路管理者や鉄道事業者に対策を求めているが、地元との合意形成や多額の費用がハードルとなり進んでいない。
「危険なので、なるべく使わないようにしている」。昨年事故があった宇佐市のJR日豊線金田踏切近くの住民は、普段の利用状況をそう明かした。
踏切は事故で縁石が破損し当面、「通行禁止」となっている。水田地帯を走る幅1・8メートルの未舗装の農道にあり、通行できる車は軽乗用車まで。地元の人は約350メートル離れた踏切から聞こえるわずかな警報音と、列車の汽笛を頼りに渡ることができるかを判断するという。
事故に遭ったのは福岡県内の運送業者だった。近くで働く30代男性は「これまで狭い道で立ち往生している車を何度か見たことがある。カーナビの最短ルートとして案内されるため、地理に慣れていない人がナビに従って迷い込むのではないか」と推測する。
危険ではあっても、地域の農家には必要な道でもある。市耕地課によると「通れなくなると農地まで往復約1キロを遠回りしなければならない農業者が出てくる」。地元の長野正彦区長(68)は「利便性が下がり農業を辞める人が出てくれば、耕作放棄地が増える可能性もある」と危惧する。
第4種踏切は全国に2367カ所ある(昨年3月末時点)。総務省からの勧告を受け、国土交通省は21年11月、廃止や警報機の設置といった安全対策を話し合うよう、道路管理者と鉄道事業者で構成する協議会に求めた。
以降、昨年3月末までの2年間で対策が進んだのはわずか88カ所。全体の3・6%しか解消していない。
県内でこの間、対応した踏切はゼロ。JR九州は廃止の方向で地元と協議を進めるが、生活道などとして定着している所が多く、地域住民らとの協議が整わないという。
廃止せずに改修するには費用がかかる。警報機と遮断機を取り付けて「第1種」に格上げする場合、道路の拡幅などで数千万円が必要となる場所もあり、行政側からは「整備費の捻出が課題になる」との声が上がる。
交通計画に詳しい日本文理大工学部の吉村充功教授(48)は「他県では、踏切の手前に簡易的な踏切ゲートを設け、歩行者が自身の手で遮断バーを持ち上げて通行する形式も取り入れられている。安価に設置でき、安全性を高める効果が期待できる。住民と話し合い、地域に合った対策を模索するべきだ」と指摘している。