大分市の時速194キロ死亡事故で適用基準の不明確さが浮き彫りになった危険運転致死傷罪について、鈴木馨祐法相は10日、条文の見直しを法制審議会(法相の諮問機関)に諮問した。一定の超過速度や体内アルコール濃度で起こした死傷事故に、法定刑が最長で懲役20年の同罪を一律に適用できるようにするかが焦点。まとまれば、法務省は改正案を国会に提出する。
法制審の総会で、鈴木法相は「危険で悪質な運転に適切に対処できていないという指摘がある」と述べ、同罪を定める自動車運転処罰法の見直しを諮った。
検討項目は三つ。高速走行と飲酒運転のほかは、車のタイヤを横滑りさせながら運転する「ドリフト走行」を対象に加えるか否か。法制審は近く学識経験者による部会を設け、議論を始める。法改正でまとまれば、要綱を法相に提出し、法務省が条文案を作る。
危険運転致死傷罪は悪質な事故に厳罰を科すため、2001年に創設された。「進行を制御することが困難な高速度」「アルコールの影響で正常な運転が困難」といった条文が分かりにくく、時速百数十キロや多量の飲酒状態でも適用されず、遺族が「納得できない」と声を上げている。
昨年2~11月に見直しを議論した同省の有識者検討会は「法定速度の○倍以上」といった数値基準の導入を提言した。委員を務めた東京都葛飾区の被害者遺族、波多野暁生さん(47)は「危険な運転を巡り、一般感覚と法の定義に乖離(かいり)がある。ギャップを埋めるための議論を法制審で求めたい」と話した。
■「遺族の声を取り入れた議論期待」
危険運転致死傷罪の見直しが法制審議会に諮問されたことについて、大分市の時速194キロ死亡事故の遺族、長(おさ)文恵さん(59)は10日、「遺族の声を取り入れた議論を期待している」と述べた。
事故を巡り、大分地検は当初、被告の男を過失運転致死罪(最高刑は懲役7年)で起訴。「過失なわけがない」と遺族が署名活動を展開した後、危険運転致死罪(同20年)に切り替える経過をたどった。
長さんは「194キロの高速度でも、(最初は)危険運転で起訴してもらえなかった。遺族が声を上げなければ、危険運転が適用されないような状況は変わるべきだと思う」と指摘した。
超過速度で適用の線を引く数値基準の導入については、「要件が明確になるのは賛成だが、設定する速度について慎重に議論してほしい」と話した。
事故から4年に合わせて市内で開いた記者会見で語った。
<メモ>
大分市の事故は2021年2月9日夜、大分市大在の一般道(法定速度60キロ)で発生した。当時19歳だった男(23)=同市=が乗用車を時速194キロで走らせ、交差点を右折してきた乗用車に激突。運転していた同市坂ノ市南、会社員小柳憲さん=当時(50)=を死亡させた。昨年11月の大分地裁判決は危険運転致死罪の成立を認め、男に懲役8年を言い渡した。検察側と被告側の双方が福岡高裁に控訴している。