大分市の時速194キロ死亡事故で適用基準の不明確さが浮き彫りになった自動車運転処罰法の「危険運転致死傷罪」について、鈴木馨祐法相は28日、法制審議会(法相の諮問機関)に法改正に向けた検討を諮問すると発表した。一定の速度や飲酒を超えた死傷事故に一律で同罪を適用できるようにしたい考え。「曖昧」と各地の遺族から批判されてきた法を見直すため、学識経験者らによる詰めの論議が始まる。
同日の閣議後会見で、2月10日の法制審総会に諮問することを明らかにした。検討を求めるのは3項目で、高速走行と飲酒運転の他は、車のタイヤを横滑りさせながら運転する「ドリフト走行」などを対象に加えるか否か。刑法学者や法曹関係者らが年度内にも審議を始め、まとまれば法改正の要綱を法相に提出する。
鈴木法相は会見で「法整備を要すると判断した。危険・悪質な運転に適切に対処できていないのではないかという指摘がある。できる限り早期に答申をもらいたい」と述べた。
現行の危険運転致死傷罪は「進行を制御することが困難な高速度」「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態」などで起こした死傷事故が対象となる。
「制御困難」「正常な運転が困難」といった条文が分かりにくく、時速百数十キロや多量の飲酒状態であっても適用が見送られるケースが各地で起きている。
昨年11月、法務省の有識者検討会は要件を明確にするため、「法定速度の○倍以上」「呼気1リットル中○ミリグラム以上」といった数値基準を設ける方向性を提言。法制審では線引きする具体的な数値も論点となる見込み。
石破茂首相は今月15日、東京都内で開かれた交通安全国民運動中央大会で「危険運転に的確に対処できるよう、罰則の見直しに関する検討を進める」と発言し、法改正に前向きな姿勢を示している。
■悪質運転を見逃さぬ議論必要
<解説>危険運転致死傷罪の見直しを法制審議会で議論することが決まった。自動車運転処罰法の改正に大きく踏み出したと言える。
議論が高まる契機となったのは、大分市の時速194キロ死亡事故だった。
大分地裁で刑事裁判が始まったのは昨年11月で、事故から3年9カ月がたっていた。危険運転の成否を巡って検察側と弁護側の主張が対立し、公判前の争点整理が長引いたからだ。
大分地検はサーキット場を貸し切って走行実験をし、視野の専門家に危険性を証言してもらった。刑法学者は「かなりの時間と労力を割いた立証だった」と分析する。
判決は危険運転致死罪の成立を認めたものの、一連の経緯を振り返ると、適用要件を明確にする法改正は必要だろう。
法制審では、速度超過や体内のアルコール濃度といった「数値基準」の導入を審議することになる。
専門家や遺族らは▽数値をわずかでも下回ったら、適用できなくなる懸念▽事故に至る個別の事情を無視し、数値を超えたら例外なく危険運転として罰することの妥当性―といった課題を指摘する。
法制審の委員となる学識経験者らは、分かりやすい基準を示した上で、悪質な運転を見逃さないよう議論を尽くす必要がある。
<メモ>
大分市の事故は2021年2月9日夜、大分市大在の一般道(法定速度60キロ)で発生した。当時19歳だった男(23)=同市=が乗用車を時速194キロで走らせ、交差点を右折してきた乗用車に激突。運転していた同市の男性会社員=当時(50)=を出血性ショックで死亡させた。一審大分地裁は昨年11月28日、危険運転致死罪の成立を認め、男に懲役8年の判決を言い渡した。検察側と弁護側の双方が福岡高裁に控訴している。