サッカーJリーグ・大分トリニータで、2022年まで10季にわたり中心選手として活躍した松本怜さん(36)=大分市=が県内で農業に挑戦している。昨年は豊後高田市でサツマイモ約700キロを収穫した。今もサポーターやスポンサーとクラブをつなぐ役職を担っており、「ホーム戦で焼き芋を食べてもらいたい」と意気込む。規模拡大や他品目の生産も計画しており、引退した選手のセカンドキャリアとしても道筋を付けたい考えだ。
松本さんは北海道室蘭市で生まれ育った。祖父母が道内でメロンやコメなどを作っていたことで、「子どもの頃から農業に親しみ、よく作業を手伝っていた。前から仕事として関心があった」という。
23年からトリニータのCRO(クラブ・リレーションズ・オフィサー)を務めており、「農産品販売や農業体験を通じ、サッカーファンを増やせるのでは。成功すれば引退選手の職業の選択肢にもなる」との思いを強くしていった。
昨年に手探りでチャレンジを始めた。知人から豊後高田市見目の農地15アールを借り、高糖度品種「べにはるか」などの苗777本を周囲の協力も得て5月に植えた。自らが付けてきた背番号「7」にちなんだ。
今も九州リーグ・ジェイリースFCで選手としてプレーする。7、8月は午前中に大分市内で練習、午後からは畑の草刈りで汗を流す日々が続いた。CROの営業活動や会議もこなしつつ「多い時は週3日、生育状況をチェックしていた。結構ハードだった」。
心配した台風10号の影響もなく、10月に収穫にこぎ着けた。「周りの人たちの協力のおかげ。掘るまでドキドキしたけど、初めてにしては上出来」と納得の表情を浮かべた。
直接の指南役はいない。知り合いの農家らの助言を受けつつ、ネット動画も参考に作業を続けた。県主催の農業経営塾にも参加し、ノウハウを学んでいる。
収穫したサツマイモは大分市内の保管庫で甘みが増すよう熟成中。2月にクラサスドーム大分(同市)であるトリニータ開幕戦で焼き芋を販売する準備を進めており、「サポーターに味わってほしい」と話す。
今年は同市戸次地区で昨年より広い農地30アールを借り、JAなどの協力を得ながら本格的に取り組む予定。県特産カボスなど他の品目の栽培も検討している。
目標はトリニータのロゴが入った農産品をスーパーに並べること。「チームをよく知らない人に、試合を見に来てもらうきっかけをつくりたい。地域密着でしっかり収益を上げる事業に成長させたい」と力を込めた。
<メモ>
松本さんは1988年生まれ。青森山田高、早稲田大を卒業後、2010年に横浜F・マリノス入り。13年に大分トリニータに期限付きで移り、15年に完全移籍した。22年に契約を満了し、CRO就任が決まった。「レイチェル」の愛称で親しまれている。