「敵」男の周囲で起こる不可解な出来事を描く

筒井康隆の小説を映像化した「敵」(ⓒ1998 筒井康隆/新潮社 ⓒ2023 TEKINOMIKATA)

 10年前に妻に先立たれ、1人でつつましく暮らす老いた元大学教授の男が体験する不可解な出来事を描く。筒井康隆の同名小説を「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督が映像化。昨年11月開催の第37回東京国際映画祭では、最高賞の東京グランプリの他、最優秀監督賞、最優秀男優賞を獲得した。
 儀助(長塚京三)は、炊事や買い物など、日々の生活を丁寧にこなし、穏やかに過ごしている。貯金から自分があと何年生きられるかを計算し、「残高に見合わない長生きは悲惨」と口にする姿は悟りの域に達しているように見える。一方で、たまに家を訪れる教え子の靖子(滝内公美)にときめきを覚え、行きつけのバーではマスターのめい、歩美(河合優実)との語らいに花を咲かせる。
 ある日、仕事で使うパソコンに「敵が来ると言って、皆が逃げ始めています」と書かれたメールが送られてくる。その日を境に不思議な夢を見るようになるのだが…。
 儀助の好意を知って誘惑してくる教え子や、何事もなかったかのようによみがえってくる亡き妻の姿―。陰影の付いたモノトーンの映像の中で、悪夢と現実が入り交じったようなシーンが続いていく。不可解な出来事に翻弄(ほんろう)され、人としての本質をむき出しにしていく主人公を、長塚が繊細な演技で好演している。「敵」が意味するものを考えながら鑑賞すると、さまざまな味わいのある一作。
 
 シネマ5で18日(土)~24日(金)の午前10時、午後2時50分、同5時、同7時10分。(この日程以外も上映あり)

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 「大分合同新聞ムービーアワー」は厳選した映画をお届けするプロジェクト。テーマや話題性を吟味した作品を週替わりで上映します。

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