「拳と祈り―袴田巌の生涯―」再審開始までの日々を描く

「拳と祈り―袴田巌の生涯―」の一場面(ⓒRain field Production)

 死刑判決を受けながらも、長年冤罪(えんざい)を訴え続け、今月9日に無罪が確定した元プロボクサー袴田巌さんの姿を追ったドキュメンタリー。
 当時30歳だった袴田さんは、1966年に静岡県で発生した一家4人殺害事件の容疑者として逮捕される。「犯人ではない人間を犯人にしていてふざけている」と訴えていたが、1日平均12時間という過酷な取り調べの中で「自白」。公判では一貫して無罪を訴えるが、80年、最高裁で死刑が確定してしまう。
 2014年に第2次再審請求が認められ、「捏造(ねつぞう)された疑いがある証拠で有罪とされた」という理由で釈放された。カメラは、姉秀子さんの支えを受けながら日々の生活を送り、再審開始の日を迎えるまでの日々を描く。袴田さんは死刑執行の恐怖と向かい合う中で、拘禁反応を発症。家の中を歩き回り、自らを神と称するなど意思疎通が難しい状況にある。秀子さんは彼の行動を否定することなく、明るい顔で見守っている。「弟に効く薬は自由しかない」という言葉は胸に迫る。
 無罪確定から間もないということもあり、作品は現在のニュースとリンクするところも多い。畝本直美検事総長は8日、控訴断念を表明し、異例の謝罪をしたが、証拠が捏造と認定されたことについては不満を示した。事件発生から58年。なぜ、袴田さんは逮捕されたのか。なぜ、無実の人を長年拘束してしまったのか。エンドロールの後も考えさせられる作品だ。

 シネマ5で26日(土)~11月1日(金)の午前10時。

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 「大分合同新聞ムービーアワー」は厳選した映画をお届けするプロジェクト。テーマや話題性を吟味した作品を週替わりで上映します。

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