「箱男」箱から世間を観察する男描く

「箱男」の一場面(ⓒ2024 The Box Man Film Partners)

 段ボールをかぶって生活をし、のぞき穴から見える街の人々を一方的に観察する「箱男」。その存在を意識し、魅せられてしまった人々を描いたドラマ。
 カメラマンの「わたし」(永瀬正敏)は、たまたま目の前に現れた箱男に興味を持ち、撃退。残された箱に入り、新たな箱男になる。外からは正体を知られることのない段ボールの姿で街を徘徊(はいかい)する。“先代”が残したノートに記録を付けながら、「こちらは何でもお見通しだ」と世間をのぞき続ける。
 ある日、「わたし」は何者かに狙撃されてけがを負う。通りがかった女性、葉子(白本彩奈)のアドバイスに従って近くの病院に行くと、そこには看護師姿の葉子と医者(浅野忠信)が。「わたし」は、医者が自分を襲った人物であると気付くのだが…。
 原作は今年生誕100周年を迎えた作家、安部公房が1973年に発表した同名小説。監督は「狂い咲きサンダーロード」「蜜のあわれ」の石井岳龍。97年にいったん製作を進めていたものの、クランクイン前日、資金の問題から中止に。27年の時を超えて、当時出演を予定していた永瀬や佐藤浩市らと共に完成させた。
 原作は半世紀以上前の作品だが、物語は決して古さを感じさせず、むしろ現代的。現代社会を生きる私たちが熱中するSNS(交流サイト)は匿名性が高く、さながら本作の「箱」のよう。「箱男」とは何者なのか―。この時代に登場したことの必然性を感じる一作。

 シネマ5bisで28日(土)~10月4日(金)の午後2時55分、同7時45分。29日は同7時45分の回が休止。

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 「大分合同新聞ムービーアワー」は厳選した映画をお届けするプロジェクト。テーマや話題性を吟味した作品を週替わりで上映します。

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