危険運転致死傷罪「数値要件」に複数賛同 法務省の有識者「処罰範囲拡大」の声も

第8回会合が開かれた法務省の有識者検討会=19日、東京・霞が関

 大分市の時速194キロ交通死亡事故で適用要件の曖昧さが浮き彫りになった危険運転致死傷罪について、法務省の有識者検討会が見直しの議論を進めている。議事録によると、一定の速度超過を対象にする「数値要件」を新たに設ける案に賛同する意見が多い。要件が分かりやすくなり、悪質な事故に適用しやすくなる一方で、処罰範囲が過度に広がるとの指摘もある。19日は東京・霞が関で第8回会合があった。
 会合には刑法学者、検察官、弁護士、被害者遺族ら計10人が出席した。議事は非公開。法務省によると、数値要件とは、条文に法定速度の「○倍以上」「時速○○キロ超過」などと明記し適用基準を明確にする方法。この日の会合では適否や数値などについて協議したという。
 法務省の担当者は「検討会としての統一的な意見は集約していないが、肯定的に捉える声が複数出ている」と説明した。この日は飲酒運転と赤信号無視の車が引き起こす悪質な事故についても要件の見直しを議論した。次回は10月17日。
 同罪の対象となる高速度の事故について、現行の自動車運転処罰法は「進行を制御することが困難な高速走行」と規定している。定義がはっきりしないため、法定速度60キロの一般道を時速150キロ近くで走行した死傷事故でも、裁判で認められなかったケースが起きている。
 大分市の事故では当初、大分地検が加害ドライバーの男(23)を過失運転致死罪で在宅起訴した。遺族が「納得できない」と声を上げ、2万8千筆を超える署名を提出した後、地検が危険運転致死罪に切り替えた経緯がある。
 飲酒運転の死傷事故でも、酩酊(めいてい)状態だったドライバーに適用されない事例が相次いでいる。
 これらの現状を受け、法務省は今年2月、条文見直しを視野に入れた検討会を設置した。焦点の一つが、「分かりにくい」と遺族や識者に指摘されてきた要件の明確化。議論の中心となっている数値要件の導入は、3月の第2回会合でヒアリングを受けた被害者団体も提案している。
 議事録によると、これまでの会合では、複数の委員が「速度で線引きすることは一考に値する」などと前向きな発言をしている。一方で、弁護士の委員は数値で線引きをした結果、危険性の低い事故までが厳罰に処される可能性があると懸念。法改正するとしても条文の在り方を慎重に検討するべきだとの姿勢を示す。
 法務省刑事局は「著しい高速度の車が起こした事故を巡り、危険運転致死傷罪の適用が裁判で争いになっている。どういう基準が望ましいか、引き続き検討会で議論してほしい」と話している。

<メモ>
 大分市の事故は2021年2月9日深夜、同市大在の県道(制限速度60キロ)で発生した。当時19歳だった男(23)が乗用車を時速194キロで走行させ、交差点を右折中だった乗用車に激突。乗っていた同市の男性会社員=当時(50)=を出血性ショックで死亡させた―とされる。大分地検は22年7月、男を過失運転致死罪で在宅起訴した。遺族は罪名の変更を求めて署名活動を展開。地検は同12月、危険運転致死罪に切り替えた。今年11月5日に裁判員裁判の初公判が開かれる。

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