熱狂のラストバトル バトル・シャークの栄光と涙

選手コールで、赤・青・白のシャークカラーの紙テープが四方から投げ込まれた

 8月5日の大分合同新聞本紙の企画「彩・いろどり」で取材した大分プロレスリングFTOのレスラー「バトル・シャーク選手(シャーク)」の引退試合が12日、大分市ホルトホール大分で行われました。
 この興行の前売り券は完売。主催するFTOによると「これまでの興行の中で記憶にない」とのこと。約250席の客席は隙間なく埋まり圧巻でした。

 22年間のプロレス人生にピリオドを打つバトル・シャーク。本紙企画の取材で知り合ったバトル・シャークの最後の勇姿を見届けようと観戦に行きました。プロレス観戦はほぼ初めての筆者がその観戦記をこちらでお伝えします。

【試合概要】
試合形式:3対3のタッグマッチ(15分1本勝負)
赤コーナー:バトル・シャーク、ホバーマン2号機、鯖王(サバキング)
青コーナー:スカルリーパー・エイジ、KAZE(カゼ)、スペル・デルフィン

【バトル・シャークのストーリー】
 2004年、団体創設時から代表のスカルリーパー・エイジと共に戦ってきたレスラー。
 2006年、試合中に首の骨を折り入院。握力が激減し引退を考えたが、ファンの強い励ましで復活。ファイトスタイルを変更し、メキシコ・ルチャリブレの関節技ジャベを追求した。
 控えめで優しい人柄がファンやレスラーから愛されている。

【筆者の感想】
 プロレス観戦はほぼ初めて。会場は意外にも冷房が効きヒンヤリして快適。暗い室内に白い霧が漂い、非日常的な雰囲気。しかし、試合が始まると会場は熱気に包まれていく。その日のクライマックスが近づくにつれて、観客の胸の高鳴りを感じた。(観戦初心者の筆者もわくわくして、随所で大声を張り上げて観戦しました)

【試合展開】
◇選手入場
 メインイベントを待ちわびた観客が、熱狂的な歓声を上げレスラーを迎え入れる。シャーク以外の選手が次々とリングに上がり主役を待ち構える。いよいよリングアナがバトル・シャークを呼び込むと、リングへと続く赤い花道の両脇から、観客全員のスマートフォンが一斉に向けられ、花道をより一層明るく際立たせた。

 シャークは、ハイタッチをすべての観客とするために、会場を1周。イスの間に入って一人一人と交わしていました。ファンに対する思いの熱さに感動!(筆者もハイタッチをしました)

◇試合開始
 先発を買って出たのは、バトル・シャークとスカルリーパー・エイジ。22年間の引退試合の開始! ゴングの音が響く。刹那に組み合うかと思いきや、2人とも微動だにせず数秒間にらみ合う。シャークが静寂に我慢できず仕掛け、関節技の攻防が始まる。エイジがシャークの腕を取って肘の関節をねじ上げると、シャークが自身の体を回転させ反動で投げ飛ばす。独特のポーズを決めるシャークの必殺チョップでエイジが吹っ飛び会場が沸く。ここで、仲間のホバーマン2号機と交代。

 開始直後のお互いがにらみ合う時間に、これまでの22年間が走馬灯のようによみがえったファンも多くいたのではないでしょうか。

 シャークの独特のポーズがつくチョップは、「シャークチョップ」と思いきや、熱烈なファンによると名前はないらしい。

 ホバーマン2号機の体が想像以上に筋肉質で大きいのにもかかわらず身軽な動き。個人的に気になるレスラーでした。

◇再登場
 シャークの再登場! 黒い覆面のKAZEの足を取り、膝関節を回す「シャークスクリュー」で投げ飛ばす。間髪入れず、エイジ、スペルデルフィンもシャークに蹴りかかるが、シャークスクリュー3連発が決まり、会場は大喝采。
 さらにKAZEを間接技で転がしていき、「シャーククラッチ」を極める。ロープに逃げたKAZEをコーナーの最上段に座らせ、大技の「雪崩式フランケンシュタイナー」が炸裂! 本試合最大の盛り上がりをみせた。フォールするもエイジがカットに入り阻止。

 フランケンシュタイナーとは、相手の頭を両足で挟み込んで後方に回転し、頭からマットに叩きつける大技。

 シャーククラッチは、足4の字固めに似たもので相手の両脚を交差させてきめ、膝などに大ダメージを与えるらしい。「シャークスクリュー」は、「ドラゴンスクリュー」のシャーク版。足へのひねり技のドラゴンスクリューは攻守が逆転する起点となるところが魅力。国東市出身のトップレスラー藤波辰爾が考案。

◇スカルリーパー・エイジとの対決
 共に歩んできたスカルリーパーエイジとの対決。体の大きなエイジの方が体力で勝る。エイジの波状攻撃にスタミナが奪われ、ふらつくシャークは、トップコーナーからエイジの「ブレーンバスター」を食らう。
 立て続けに、うつぶせに担ぎ上げられ、肩口から落とす「デスバレーボム」が爆発。本能で上体だけ起こしたシャークの顔面に、エイジのハイキックがめり込んだ。シャークはグロッキー状態。3カウントを取ろうと、倒れたシャークに覆い被さるエイジ。そのまま決まるかと思いきや、全身のばねを使ってフォールから逃れた。不屈の闘志を燃やすシャークに会場からは大きな歓声が上がる。

 引退する56歳が相手だからといって、手を抜いた試合運びは失礼に当たる。全力で容赦なく技を仕掛けることがレスラーの流儀である。

◇スペル・デルフィンによる結末
 デルフィンはシャークが対戦を希望したレスラーで、引退興行のために参戦した。憧れの選手と最後に戦いたいという、シャークの「男のセンチメンタリズム」だ。そのデルフィンがリングイン。限界のシャークへ無情の攻撃、顎への掌打「大阪臨海アッパー」がさく裂。シャークは半回転でマットに吹っ飛ぶ。シャークの体を起こし、デルフィンが必殺フルコースへの流れに持っていく。正面から相手の首を脇に挟み腕を首にからめた「ヘッドロック」をしたまま、自身の体をコーナーポストを登らせる。そのまま相手の体を軸にして自分の体を回しながら、シャークの脳天を打ち付ける「スイング式DDT」が炸裂。リングに仰向けに倒れ込むシャークの腕と足をそれぞれクロスにして押さえ込む「デルフィンクラッチ」が完成した。この固め技を決められると身動きができなくなり、たいがいのレスラーは逃れられない。レフェリーがマットを叩く。「1・2・・・3!」。会場の落胆の声とともに「カンカンカーン!」と試合終了のゴングが鳴り響いた。

【試合結果】
 ✕バトル・シャーク ー スペルデルフィン〇
 14分21秒 デルフィンクラッチ 

【試合終了】
 敗戦して沈み込むシャークのチーム。勝利のポーズを取る対戦チーム。その中に1人、不満げに首を横に振るエイジがいた。
「おいシャーク、こんなもんでいいのか。」「最後に俺とおまえの1対1のシングルマッチをやろうじゃねぇか!」観客はエイジの急な提案に面食らい、どよめいた後、大きな拍手をした。

【突如始まった特別試合】
 「俺とおまえのシングルマッチだ」と急きょ始まった特別試合。開始のゴングとともにリング中央でチョップ合戦。しかし、シャークのチョップに力はない。散々打ち合った後、エイジが見切りを付けるかのように、シャークの体を持ち上げて背中をたたきつけるボディースラム。背中を強打して苦しむシャークに、エイジが「シャークあばよ!」と宣言し、うつ伏せの背中を反らせる「サソリ固め」をかけた。激痛に耐えきれずシャークはマットを叩きギブアップ。そのまま沈み込んだ。
 マイクを渡されたエイジは「俺たちの20年はたったの2分で終わったよ。ありがとうよ、ありがとうよ」と言った後、「こい! お前をギュッとしてやるよ!」と熱い抱擁を交わした。

 2人が抱き合った時、観客席にいる筆者には聞こえなかったが、リングサイドにいた井上直輝カメラマンの耳にはおえつに近い2人の泣き声が聞こえたそうだ。

 チョップの攻防は、お互い思い出を振り返りながら放っていたのではないだろうか。実況中継・解説席はマイクを置き、静かに見守っていた。2人の歩んだ道のりを知る会場のファンも泣いていた。

【試合結果】
 ✕バトル・シャーク ー スカルリーパーエイジ〇
 2分25秒 ギブアップ・サソリ固め 
 
【試合後のマイク】
 「22年間、いろいろあった。プロレスを愛して本当に楽しかった! 引退すると決めてから、本当の意味でプロレスを楽しめるようになった。本当に楽しかった!」
 「5日の大分合同新聞をみんな読んでくれたと思う。俺は、みんなのヒーローにもなれたか?」
―この日最大の拍手が起きた。

【最後に】
 試合前に「バトル・シャークをぶっつぶす」と言っていたスカルリーパー・エイジ。この試合は一体どうなってしまうのか。ドキドキわくわくした。客席を巻き込む場外乱闘、トップロープから舞うレスラー。胸にチョップを食らった衝撃で舞う汗のしぶき。客席から投げ込まれる大量の紙テープ。日常にはないエキサイトな空間に身を置くことができた。身近な所にこんな楽しくて熱いイベントがあったとは全く思いもよらなかった。
 大分県の地方プロレス団体だと侮ってはいけない。自分よりはるかに屈強で強靱(きょうじん)なレスラーが日々トレーニングに励み、体と技をぶつけ合う。レスラー一人一人が強さを追求する姿に感動や興奮、色々な思いが生まれる。レスラーの成長を見守るのもいい。プロレスにはドラマがある。人生と重なるような不思議な魅力を感じる。
 大分に住む自分のすぐそばで闘ってくれるプロレスラーに敬意と感謝を覚えた。プロレス最高!!
(文・小林滋、写真・井上直輝)

最新記事
大分県西部振興局長 自転車を酒気帯び運転で略式命令 県が会見
大分空港と大分市を結ぶホーバークラフトの就航日を発表 運航会社の会見
おおいた ご当地ソフトクリームマップ
コメの適正価格はいくら? 結果発表
ホタルうおっちんぐ2025 あなたの情報をお待ちしています