56歳の覆面レスラー「格好悪くても全力で」 バトル・シャーク、引退試合へ決意

引退前の「道場マッチ」で会場を沸かせる覆面レスラー、バトル・シャーク(右)=7月、大分市

 大分市を拠点に活動する「プロレスリングFTO」の「道場マッチ」は、月1回の開催を楽しみにするファンで席が埋まる。7月上旬、同市南津留のキングタイガージムのリングには、8月12日に引退試合を控えた覆面レスラー、バトル・シャーク(56)が立っていた。
 加齢は残酷にも肉体を衰えさせる。3カ月前に若手レスラーとの試合で痛めた脇腹は完治せず、トレーニング不足も否めない。対戦相手のスピードに苦戦し、一瞬の隙を突いて何とか勝利をもぎ取るのが精いっぱいだった。
 自称「目立たないレスラー」。代表のスカルリーパー・エイジと共に2004年の旗揚げから、団体を支えてきた。2人組のタッグではチャンピオンベルトを巻いたが、シングルでは、あと一歩をものにできず、真の意味でのトップに上り詰めることはできなかった。会社員との二足のわらじで挑んだマット人生は、時に引退の淵にも立つ起伏のある道のりだったという。

 若き日のシャークは、華麗に宙を舞う空中殺法で人気を博した。決め技はトップロープから背面宙返りで相手を押しつぶす「ムーンサルトプレス」。派手な技で会場を沸かせ、勝利の3カウントを響かせた。
 悲劇に見舞われたのは06年秋。設立2周年の記念試合で相手に技をかけていて体勢を崩し、マットに頭を打ち付けた。
 立ち上がることができず、そのまま病院に運ばれた。診断は頸椎(けいつい)骨折。右肩がしびれ、やっとペットボトルを持てる程度しか力が入らなくなった。
 「終わったな」。引退が頭をよぎる中、自身のブログに書き込まれたファンのメッセージに力をもらった。「早く良くなって」「復帰を待っている」「またシャークを見たい」。背中を押され、懸命にリハビリに励んだ。
 ただ思うようにパワーは戻らなかった。「レスラーとして方向転換が必要だ」。頭に浮かんだのは、あまり力を必要としないメキシカンスタイルの関節技だった。
 徹底的に研究し、技を身に付けた。派手さはないが予想外の変幻自在な動きは、狙い通り観客を魅了。玄人ファンをうならせる存在としてカムバックした。

 14年、ブログを更新していて、あるコメントが目に留まった。ハンドルネームから、自身の離婚後、離れて暮らしている長男だと気付いた。『今度試合を見に行く』。当時、中学生だった息子は22歳の青年になっていた。
 試合当日、久しぶりに顔を会わせた青年に言われた。「今でも俺のヒーロー」。うれしくて覆面の下に涙があふれた。全盛期の輝きを失いながらもレスラーを続けてきて、心から良かったと思った。

 団体では世代交代が進む。「若手が成長して頼もしい」。引退を決めた理由でもある。最近は設立20周年興行を機に、新しい客も足を運んでくれるようになった。時代は回り、自身の体はボロボロ。潮時を感じたという。
 引退試合は間近に迫る。「正直、体が持ってくれたら…」というコンディションなのは自覚している。それでも、銀色のマスクを脱ぐまでは、闘うレスラーであり続けたいと思う。「格好悪くても全力で突っ込んでいく」。目立たないヒーローが決意を込める。

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