「風が吹くとき」日常を奪う核兵器の恐怖

「風が吹くとき」の一場面(©︎MCMLXXXVI)

 つつましやかに生きていた老夫婦が体験する核兵器の脅威を描いたアニメーション。「スノーマン」などで知られるレイモンド・ブリッグズの絵本を映画化した1986年の作品をリバイバル上映。日本語吹き替え版は故大島渚が演出を担当した。
 ジム(森繁久弥)とヒルダ(加藤治子)は英国の田舎で平凡に暮らす夫婦。ある日、ラジオから新たな戦争が起こったというニュースが流れてくる。ジムは政府の発行したパンフレットに従って核シェルターを造り始めるのだが…。
 登場人物はシンプルでかわいらしいタッチ。今は亡き森繁と加藤のぼくとつとした味わいのある演技も相まって、愛らしくさえ感じる。それだけに、1発の核兵器に深く苦しめられていく物語には胸を締め付けられる。励まし合い、国から救助が来ることを信じ、日常と変わらぬ日々を送ろうとする2人。その姿にさまざまな感想を抱くとともに、誰もが核兵器の恐ろしさを感じるはずだ。
 原作が描かれたのは東西冷戦さなかの82年。米国とソ連(現ロシア)が数万発もの核兵器を保有していた。その後各国の保有数は減少したが、現在でもロシアのプーチン大統領が「必要なら使う」と発言しており、核の脅威は続いている。
 多くの人を苦しめる戦争。とりわけ核使用は、人間の尊厳を踏みにじる愚行だ。そのことを心に刻み付けてくれる、色あせることのない名作。

 シネマ5で8月3日(土)~9日(金)の午後1時50分、同6時20分。

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 「大分合同新聞ムービーアワー」は厳選した映画をお届けするプロジェクト。テーマや話題性を吟味した作品を週替わりで上映します。

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