広島での被爆体験を記した小説「夏の花」で知られる作家原民喜(1905~51年)が親交が深かった作家佐藤春夫に宛てた遺書が見つかったことが6日までに、分かった。45歳で自死した原の遺書は他にもあり、佐藤宛ての遺書も存在は知られていたが、文面全体が明らかになるのは初めて。
遺書を寄贈された実践女子大(東京)が発表。400字詰め原稿用紙1枚で「私は誰とも さりげなく別れて行きたいのです 御親身にしていただいたことを ほんとうに うれしく思ひます」とつづっている。
死の直前に雑誌に発表した「遠き日の石に刻み 砂に影おち 崩れ墜つ 天地のまなか 一輪の花の幻」という詩も添えられていた。
佐藤らは原の死後、「碑銘」と題されたこの詩を刻んだ碑文を広島市内に設置。67年に原爆ドーム前に移設された。
原は友人や親族らに宛てて計17通の遺書を書いたとされ、親友の作家遠藤周作にも同じ詩を贈った。遺書を調査した東京大の河野龍也准教授は「感謝と敬意をつつましく表明した遺書で、詩の背景も探ることができる」としている。