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202049日()

なし崩し放出でいいのか  原発処理水問題

 東京電力福島第1原発で増え続ける処理水の処分方法などを議論する政府小委員会で、経済産業省は、海洋と大気への放出など3案を提示した。議論は大詰めであり、この案を軸に決着が図られる。しかし、なし崩しの放出でいいのか。決定を急ぐことより、地元との対話という困難に正面から向き合い、不信を拭う努力が先決だろう。強行は決して許されない。
 小委での議論で東電と政府は処理水の保管タンクの容量が2022年夏には満杯になり、増設には用地の確保が難しいと主張。作業資材や廃棄物の置き場も必要だと、まるで廃炉の達成を盾に取るような主張さえ見られた。地層注入や水素放出、地下埋設などの案が、前例がないとしてあっさり除外されたのも「結論ありき」を疑わせる。
 科学的には、放出に伴う健康への影響は極めて小さいことがほぼ明らかになっている。
 処理水に残るトリチウムは既存の原発からも一定の濃度、量で放出することが認められ、実際に放出が続いている。処理水を全量放出したとしても、日本人の自然被ばくに比べて約1600分の1~約4万分の1にとどまるという政府の見解には、専門家の間でも異論はない。
 だが、問題はもはや、廃炉工程表の実現性や科学的な正当性にとどまらず、国民の受け止めにも及ぶ。一連の廃炉作業における政府、東電に対する不信は、昨日今日の話ではない。
 13年には120トンの汚染水の漏えいが確認された。その後、廃炉の見通しさえ不確かな段階での安倍晋三首相による「状況はコントロールされている」との発言は失笑を買った。東電会長が海洋放出を判断したと受け取れる発言をして漁業関係者を激怒させ、処理水にトリチウム以外の放射性物質が残留していることも発覚した。
 これで何をどう信じろというのか。科学的に安全だといかに強調しても信頼が得られない現状は、身から出たさびではないか。案の定、小委の議論で最も紛糾したのは、風評被害の懸念に対する政府への注文だった。
 地元の漁業者、農家が反対するのは当然だ。
 漁業者は原発周辺海域での漁を自粛し、試験操業と魚の放射能検査を繰り返し、本格操業に移行する見通しが立ちつつある。農家は汚染土を入れ替え、津波で傷んだ農地を整備し、作物が順調に出荷できるようになってきた。このタイミングで放出が強行されれば、そうした地道な努力が無駄になりかねない。
 政府は昨年、各国の大使館向けに説明会を開き、たとえ放出されても安全だと説明した。諸外国の理解を得たいのは分かるが、地ならしのようにも映る。何より、そうした説明で理解を求める相手は、まずは地元、そして消費者ではないのか。
 原子力業界では長年、問題をできるだけ先送りし、なし崩しに事を進める体質があった。原発事故の原因となった津波対策しかり、放射性廃棄物の処理処分しかりである。廃炉と処理水の問題は、それを改める格好の機会だ。東電は必要な情報を即時に公開し、政府は批判の矢面に立ち、当事者意識を持って説明責任を果たす。信頼回復には遠回りでもその道しかない。
2020年1月27日

論説

 

 新聞ジャーナリズムの真骨頂が「論説」です。朝刊2面に掲載。現代社会が抱える広範囲な問題を真正面から捉え、公正な目で、批判すべきは批判して警鐘を鳴らします。少々硬く長い文章ですが、じっくりと読み込むことで物事の本質をしっかり見極めることができます。明日を考える指針の一つにしてください。

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