「サッカーコラム」横浜M、15年ぶりJ1優勝の立役者とは

攻撃力だけでなく、守備力の向上にも目を向けてほしい



 誰が見ても「最高の舞台」と言える試合を経験できる選手は、やはり多くないだろう。それはタイトル獲得の栄誉を複数味わった選手の場合であったとしてもだ。その意味で15年ぶりにJ1を制したチームに所属する「チャンピオンたち」はこれ以上無く素晴らしい雰囲気と状況の中で優勝シャーレを掲げた。

 12月7日に行われたJ1第34節。つまり、今季最終節にホーム・日産スタジアムで相対したのは優勝を争う2位FC東京だった。試合前の時点で、勝ち点は横浜Mが67に対しFC東京は64。さらに得失点差は横浜Mが27でFC東京は20だった。つまり、FC東京が4点差以上を付けて勝てば逆転優勝となる。第33節終了時点で失点は38。1試合平均はおよそ1・3なので、横浜Mの有利は動かない。それでも、選手やサポーターの心には「万が一」や「もしかして」というわずかな不安が消えなかっただろう。6月29日の第17節でFC東京に4点を奪われて敗れる(最終スコアは4―2)という嫌な記憶があるからだ。

 試合開始は雨交じりで、気温は平年を大きく下回る気温7度だった。しかし、愛するチームの優勝を願い、信じる6万3854人でふくれあがったスタンドは熱気で満たされていた。この観客動員数はJリーグ史上最多だという。

 逆転優勝のためには大量得点による勝利しかないFC東京は試合開始直後から横浜Mゴールに激しく迫った。その圧力をうまくいなした横浜Mにチャンスが来たのは前半26分。ティーラトンが先制ゴールを決めた。一気に優位に立った横浜Mは前半終了間際の44分にエリキが追加点を挙げる。こうなると、流れは横浜Mのものだ。後半32分には途中交代の遠藤渓太が得意のドリブルから優勝を決定づける3点目をゲットしてみせた。

 結果は3―0の完璧な勝利。スタジアムは歓喜の輪で包まれた。

 攻撃サッカーを掲げた横浜Mが今季の全34試合で奪ったゴールは68。1試合平均でちょうど2点となる。これはJ1が18チームになった2005年以降の15シーズンで4番目に多い。ちなみに最多は05年に82点を記録したG大阪だ。以下、2位浦和(15年、73点)、3位川崎(17年、71点)となっている。一方、優勝を争ったFC東京の総得点は46。過去の優勝チームで得点が最も少なかったのは、09年の鹿島と13年の広島で51点だった。FC東京が優勝していれば、最少得点の記録を更新するところだった。

 リードしても決して守りに入ることなく、さらに次の得点を狙う―。今季の横浜Mにはポステコグルー監督のこんなサッカー哲学が貫かれていた。それゆえ、タイトル奪取の原動力として、ともに15ゴールを挙げ得点王に輝いた仲川輝人とマルコスジュニオールの2トップに中途加入にもかかわらず12試合で8ゴールを奪ったエリキを加えた破壊力抜群の攻撃陣を挙げる人が多いのもうなずける。

 それでも、守備力の向上がもたらした好影響を忘れてはいけないだろう。

 シーズンを通してみると、総失点は38。リーグ7位なので、飛び抜けて守備が堅いわけではない。それでも、昨季と比較すると改善ぶりがよく分かる。一時は降格争いに巻き込まれ、最終的には12位で終えた昨シーズンの総失点は56で、下から3番目に悪かった。このせいで、リーグ2位の総得点56を生かすことができなかったのだ。

 通常では考えられない高い位置に敷かれる横浜Mの最終ライン。後方にできた広大なスペースを埋めるには、それなりの人材が必要だった。それが昨シーズンはJ3のFC琉球でプレーしたGK朴一圭であり、昨季途中から加わったCBのチアゴマルチンスだった。

 GKがペナルティーエリアを飛び出し、スイーパーのようにプレーする。いまから12年前に同じ横浜Mで見たことがある。川崎と対戦したヤマザキナビスコ・カップ(現YBCルヴァン・カップ)準決勝の後半、ペナルティーエリアの外に出ていたGK榎本哲也がスルーパスを手で処理して退場処分になった。横浜Mはすでに交代枠の3人を使い切っていたため、DFの故松田直樹さんが急きょ、GKを務めたのだ。

 当時のオシム・日本代表監督はそのプレーを評し「将来はマツダみたいなGKが必要になる」といっていたが、朴がFC東京の永井謙佑に対するファウルで一発退場になったシーンでこの言葉が鮮明によみがえった。同時に今季の横浜Mを象徴しているとも感じた。

 攻撃にミスが生じた結果、ボールを失えば、攻撃の選手も含めた全員が瞬時に相手のボールホルダーにプレスを掛ける。戻るときのスプリントも含め、今シーズンの横浜Mの攻守の切り替えの早さには目を見張るものがあった。当然だが1人でもサボる選手がいれば、このサッカーを機能させることは難しい。

 「しっかりとラインを上げてコンパクトにすれば、全員がそんなに長い距離を走って戻らなくてもいい。チームメート全員が協力しあったので成し遂げられたと思っている」

 古い話で申し訳ないが、不朽の名作として知られる映画「ゴッドファーザー」で主役を演じたマーロン・ブランドを思い出す。何の話かというと、チアゴマルチンスの声のことだ。魅力的なしゃがれ声の持ち主は、横浜Mのサッカーを遂行するためには欠くことのできない重要キャストだった。知的で冷静、技術も高い。CBの強さはもちろんだが、しなやさも持ち合わせている。さらに、スピードはチームでも随一なのだという。だから、スペースにスルーパスを通されても十分に追いつける。今でも欧州のトップクラブで活躍できるのではと思われる24歳は、仲川を差し置いてMVPに輝いたとしても異論を挟む者などいなかっただろう。

 攻撃にばかり目が行きがちだが、守備の弱いチームがタイトルを獲得するのは難しい。結局のところ、横浜Mは攻守のバランスが一番とれていたということだろう。そして、サッカーをよる面白く魅力的なものにする「攻める」チームがタイトルを取ったことは喜ばしい。

 「試合をしながら、たまに自分で笑ってしまうことがあります。楽しくて…」

 プレーしているエリキがそう思うのだから、見ている観衆が楽しくないはずはない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はブラジル大会で7大会目。

2019年12月12日

サッカーコラム

サッカージャーナリスト・岩崎龍一氏による詳細な分析です。

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