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202043日()

変わりゆく鉄輪温泉、新しい湯治を提案

中国人観光客に笑顔で応対する坂井美保さん(左)=別府市の湯治宿「ひろみや」
中国人観光客に笑顔で応対する坂井美保さん(左)=別府市の湯治宿「ひろみや」
  • 地獄蒸しをした大豆でみそ造りを楽しむ参加者=別府市鉄輪の冨士屋ギャラリー一百也
  • 女性客を中心に人気を集める「サリーガーデンの宿 湯治柳屋」=別府市鉄輪
  • コワーキングスペースで仕事をする人たち=別府市鉄輪の「a side―満寿屋―」

 別府市の鉄輪温泉は、治療や療養を目的に農閑期などに長期滞在し、温泉に漬かって過ごす湯治場として栄えてきた。近年は湯治客の減少、後継者不足などで空き家となる湯治宿や貸間旅館もある。一方で人々のライフスタイルや価値観、働き方が多様化する中、温泉の力で心身を癒やし、自分と向き合ったり、仕事をしながら過ごしたりする新しい湯治の在り方を提案する動きが出てきた。女性や若者、インバウンド(訪日外国人客)など、客層も広がる。伝統文化を残しつつも変わりゆく鉄輪温泉の今を取材した。

<鉄輪湯治シェアハウス―湯治ぐらし>学生が共同生活、情報発信
 空き家を改築した「鉄輪湯治シェアハウス―湯治ぐらし」(鉄輪東)が今月、開業する。経営するのは湯治文化にほれ込み、鉄輪温泉に移住した菅野静さん(41)。学生の“湯治女子”が共同生活を送りながら、ウェブサイトでの情報発信やイベントを通して、国内外に湯治の新たな魅力を伝える。
 菅野さんは昨年3月、大阪から移住。それまでは大手広告会社などで働き、休日になると全国各地の温泉地を訪れて疲れた心と体を癒やしてきた。「スマホと服を手放して、自分を見つめ直すことができた」。そんな中で出合った湯治宿は温泉と自分に向き合える場所だった。
 ハウスは湯治文化のよさを見直し、発信しようと発案。思いに賛同した立命館アジア太平洋大に通う日本人女子学生4人が、1期生として順次入居する。共同温泉を利用しながら学業と湯治生活を両立。共有スペースで文化体験や地域イベントなどを企画し、地域住民や旅行客が集う場としても活用してもらう。
 4人は「人の温かさを実感し、デジタル世代だからこその気付きを広めたい」と、地域コミュニティーに溶け込もうと張り切る。
 菅野さんは「若者と高齢者、旅行客が行き交うような“湯磁場”を目指したい。学生たちには湯治を通して、もっと元気になり挑戦してもらいたい」と期待している。
 問い合わせは菅野さん(☎090-3287-5380)。

<湯治宿「ひろみや」>インバウンド意識して再開
 「ウエルカム、どうぞ」―。代表の坂井美保さん(53)が明るい笑顔で語り掛けると、中国人女性客の顔がほころんだ。湯治宿「ひろみや」(井田)は昨春、インバウンドや若年層を意識した新たなスタイルの宿として生まれ変わった。再開から1年足らずで、30を超える国・地域からの旅行者が利用している。
 長期休暇を利用して各地を旅したい外国人にとって、低価格で自由度の高い湯治宿は魅力的だ。ひろみやは和室7室と家族風呂、共用キッチンがあり、地域住民と触れ合う空間もある。
 坂井さんが、母親の安波ヒサ子さん(享年81)から受け継いだ大切な場所。母の死後、約4年の休業を経て再開した。「最初はあれこれお世話してたけど。多くの外国人は自分で行き先の情報を集め、食事も外食やコンビニで済ませる。それぞれの楽しみ方があるみたい」と接し方にも慣れてきた。
 アットホームな雰囲気が「ひろみや」の魅力。客の「カム・バック・アゲイン」の言葉を励みに、湯治を世界に広げている。
 問い合わせは午後1時~同3時に、ひろみや(☎0977-66-0628)へ。

<かんなわ蒸し通りずむ>長期滞在向けに多彩な講座
 鉄輪に残る「蒸し」の文化と魅力を伝えるイベント「かんなわ蒸し通(つう)りずむ」を開いているのが、まちづくりグループ「鉄輪ツーリズム」だ。湯治文化が衰退する中、長期滞在につなげるため地域資源を生かした体験プログラムを開発。2018年から、「モダン湯治」として、現代の旅行者も気軽に楽しめる過ごし方を提案している。
 語呂合わせで「蒸しの日」に制定した6月4日から1カ月間開催。温泉蒸気を使ったヘルシーな調理法「地獄蒸し」の料理講座や、薬草を敷き詰めた天然サウナ「蒸し湯」とヨガを楽しむイベントなど、多彩なプログラムを展開する。
 定期的に開く講座も生まれ、地獄蒸しの大豆を使ったみそ造りは人気が高い。1月31日に冨士屋ギャラリー一也百(はなやもも)であった講座には県内外から約25人が参加し、みその仕込みを体験した。
 鉄輪ツーリズムは、新たなウェブサイトを立ち上げ、湯治宿の泊まり方やお薦め店の情報発信も始める。
 安波治子代表(49)は「温泉で体質改善をしたり、心や身体を癒やす時間を過ごしたりすることが現代の湯治。滞在時間を延ばすため、鉄輪でしか体験できないコンテンツを増やしていきたい」と話した。

<サリーガーデンの宿>湯治柳屋趣を残し洗練された空間
 湯けむりたなびく鉄輪銀座通りにたたずむ「サリーガーデンの宿 湯治柳屋」(井田)。昔ながらの湯治文化を受け継ぎながら、快適に過ごせる新しい湯治宿として女性客を中心に人気を集めている。
 布一面に「柳屋」と書かれたのれんをくぐると、アート作品が溶け込んだ洗練された空間が広がる。湯治目的のシンプルな滞在を楽しめるのは、明治時代からの趣が残る本館。調理器具や食器が自由に使える自炊室を備える。中庭にある「地獄釜」を使って、調達した食材を自由に蒸して食べることもできる。
 施設にはイタリアンレストラン「オット・エ・セッテ大分」を併設。県産食材をふんだんに使った、見た目にも美しい地獄蒸し料理のフルコースを味わえるのも魅力の一つだ。
 シフォンケーキと素朴な焼き菓子の店「サリーガーデン」(大分市)を営む橋本栄子さん(55)が、後継者を探していた湯治宿を引き継ぎ、2014年に開業。「ゆったり滞在するくつろぎの旅。養生する暮らし方」をコンセプトに、現代に合った湯治を勧めている。
 源泉掛け流しの温泉にじっくり漬かることや、飲泉もできる。「湯の力を借り、少しだけ日常から離れて心と身体をリセットする。そんな時間を過ごしてもらえたら」と橋本さん。連泊する客が増えているというのもうなずけた。
 問い合わせは柳屋(☎0977-66-4414)。

<コワーキングスペース「a side―満寿屋―」>旅をしながら仕事
 「温泉地で旅をしながら仕事をする」。新しい働き方や湯治のスタイルを提案する場として整備されたコワーキングスペース「a side(アサイド)―満寿屋―」(井田)。旅行者や地域住民ら多様な人が交わることでアイデアやつながりが生まれ、地域全体が活性化することを目指している。
 市が空き家となっていた元貸間旅館の1階の一部を改修して昨年4月にオープン。机や椅子を配置したワークスペースを中心に、ゆったり過ごせるソファ席、押し入れを活用した瞑想(めいそう)室などを設置。プロジェクターやコインロッカーを備え、貸し切りもできる。
 パソコン一つで働ける仕事が増えつつある。休暇中に旅行を楽しみながら特定の時間に働く「ワーケーション」の場として利用する企業も出てきている。
 運営する「HOOD」(田の湯町)の長谷川雄大代表(32)は「温泉と仕事を組み合わせた“湯ワーキング”という過ごし方を広め、鉄輪を訪れる新たな人を増やしていきたい」と話している。
 問い合わせは満寿屋(☎0977-76-5234)。

※この記事は、2月6日 大分合同新聞 12ページに掲載されています。

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