
妻の介護をきっかけに点描画を始めた井口章さん
日出町豊岡の井口章さん(74)は、無数の点で情景を表現する点描画を描いている。脳梗塞(こうそく)で倒れた妻君江さん(73)に付き添っているとき、たまたま手にしていたボールペンで描いたのがきっかけ。今では多くの美術展で入賞を重ねるまでに上達。「七十の手習いが楽しくて」と、創作活動に没頭する日々を送っている。
銀行員として四十年間、サラリーマン生活を送った。六十歳で退職した後、知人の会社で仕事を手伝っていた。そんなとき、君江さんが倒れた。すぐに仕事を辞めて付き添った。医師から「後遺症があるかもしれない」と告げられていた。
妻の病状を見守りながら、ふとボールペンを手にした。仕事で使っていたなじみのペンだ。紙に少しずつ点を打ち、景色を描いてみた。点の“密度”の違いで明と暗、微妙な質感が浮かび上がった。次第に面白くなり、作品をコンクールに応募し始めた。二〇〇五年の別府市美展、県美展で相次いで入賞。〇七年には創元展に初出品して奨励賞、翌年は入選に選ばれた。
用いるのは黒のボールペンだけ。多い部分には一センチ四方に約三百の点を打つ。100号を仕上げるのに約二百本のペンを使うという。
どの作品にも、必ず君江さんに幾つか点を打ってもらっている。“共同制作”した絵が受賞すれば、リハビリを兼ねて、東京の展示会場まで一緒に足を運んだ。「笑ってくれるのがうれしくてね」と井口さん。
今年四月、創元展で再び、奨励賞を受賞した。作品は、地元の名所・暘谷城跡の石垣にへばりついた巨木の根を描いた「城壁の老根[1]」。80号の大作で完成までに半年かけた。
表彰式は東京都であった。一昨年、昨年は夫婦で上京したが、今年は一人で出席した。「妻も好きな旅行に出掛けられるまでに回復した。本当に良かった。独学で描き始めて五年。これからも好きな絵を描き続けますよ」と意気盛んだ。
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