
手のひらに文字を書いてもらい、意思を伝え合う。目が見えず、耳が聞こえない人にとっては「手書き文字」が唯一のコミュニケーション手段になる
ごうごうと耳鳴りがし、目の前は真っ暗。世界で独りぼっちという気持ちになる。目が見えず、聞こえない「盲ろう者」の介助者を養成する講座に参加し、視覚と聴覚を失った疑似体験をした。講座は支援をするに当たり、盲ろう者の心理状況を理解することが目的。今月十七日に県聴覚障害者センターで開かれ、県内から約二十人が参加した。
腰が引け冷や汗
耳栓をし、さらに雑音が鳴り続けるヘッドホンを付け、アイマスクで視界をふさぐ。神経を研ぎ澄ませ、周囲の気配を感じようとするが、不安で胸がいっぱいになり、集中できない。
突然、ポンと肩をたたかれた。誰かが近づいていたことにも気付かなかった。「なんですか?」と聞いても、相手の返事は聞こえない。「どうしよう」と戸惑っていたら、手のひらに文字を書いてくれた。「ど・こ・に・い・き・た・い・?」。一文字ずつ何度も書いてもらい、ようやく理解できた。「ほっ」。
介助者に体を添わせるようにして、階段を下りた。右手で手すりを握り、一歩一歩、慎重に。恐怖で腰が引け、冷や汗が出る。太ももをポンとたたかれ、階段が終わったことを知る。手をつかまれ、何かに触れさせてもらう。植木鉢に植えられた花。「あ・か」と手のひらに書いてくれた文字で花の色が分かった。
家に閉じこもる
盲ろう者とのコミュニケーション手段は、手のひらに書く「手書き文字」のほか、介助者がする手話の動きを手で読みとる「触手話」、点字タイプライターのキーに見立て、盲ろう者の指にタッチする「指点字」などがある。
視覚障害があり、加えて徐々に聞こえづらくなる人、聴覚障害から少しずつ見えづらくなる人、最初から全く聞こえず見えない人など、障害の程度によってコミュニケーションの方法は異なるという。
手話や点字が分からない場合は「手書き文字」が唯一の意思伝達手段。手のひらの感覚が慣れ、文字を読み取れるようになるまではかなりの時間がかかる。思いを自由に“送受信”できない、いら立ちが気力を失わせ、いつしか「もう誰ともかかわることができない」とあきらめに変わるのかもしれない。家に閉じこもっている盲ろう者は多いという。
体験を終え、にぎやかな世界に戻った。車の音や遠くから聞こえる子どもの笑い声がした。再び、目を閉じた。ギュッと握ってくれた介助者の手が、温かかったことを思い出した。
<ポイント>
県などが介助者養成
盲ろう者 全国で推計、約1万3千人がいるとされる。県内では、大分市の広瀬かおるさん(52)らが中心となり、大分市大津町の県総合社会福祉会館で月1回「語る会」を開いている。広瀬さんは聴覚障害と視野狭窄(きょうさく)で見えにくいという障害があり、全国盲ろう者協会の「大分友の会」設立に向けて活動している。県が開く盲ろう者通訳・介助者養成研修が31日から始まる。語る会や養成研修についての問い合わせは県聴覚障害者協会(TEL097・551・2152)へ。
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