「この不況の中、笑うためだけにお金を出して来てる皆さんは、日本一の幸せもんですわ…」
大阪はミナミの「なんばグランド花月」。巧みな話術で「よしもと」の芸人たちが約800人の観衆を笑いの渦に巻き込む。秋の行楽シーズン真っ盛りの11月下旬、初めて劇場に足を運び、思いのほか遠方からの客が多いことを知った。さすが大阪だけあって、漫才や落語が人気観光スポットの一つになっているのだ。
旅行とはそもそも“非日常”を楽しむものであると、あらためて実感した。暗い世の中。せめて休みの日ぐらい仕事を忘れ、腹の底から思い切り笑いたい。でも、面白くなければ笑えない。よしもとには若手だけで800組の芸人がいるそうで、どうしたら客に喜んでもらえるかと、日々しのぎを削っている。
先の見えない世界的な経済不況は、県内の観光地にも大きな打撃を与えている。多くの人々は財布と相談しながら、これまで以上に厳しい目で行く先を見定めていることだろう。
近年、観光の形態は多様化し、一人一人が求めるものも多岐にわたるようになった。だが、変わらないのは、普段とは違う環境の中で喜びや感動、好奇心などを満たそうとしていることだ。そんな思いにどれだけ応えられるかで、観光地としての明暗が分かれる。
活動拠点は違うが、東京出身の落語家立川談春さんは「親切だけが人を説得する」と談志師匠に教わったと書いている(PHP11月号)。親切とは想像力を働かせて他人を気遣い、いい気持ちにさせること。説得とはこちらの言いたいことをきちんと受け取ってもらうこと。客から思ったような反応が返ってこないのは、売れていく中で「いつの間にか独り善がりで不親切な落語家になってしまっていた」からだと振り返る。
黙っていても客が来る時代は終わった。独り善がりな観光地になってしまっては人は集まらない。どうしたら客に喜んでもらえるか―。厳しいときこそ、接客業の原点に立ち返るしかないのでは、と感じている。
(別府支社編集部長・小田圭之介)
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