時事コラム「風」

音楽は未来を開けるか

[2009年05月05日 09:21]

 別府アルゲリッチ音楽祭がいよいよ十一日に開幕する。大分という地方で個性あふれる音楽文化を創造し、世界に発信する試みは今年で十一年目となる。
 未来を託す子どもへのまなざしの深さにおいて、総監督マルタ・アルゲリッチに勝る者はいないだろう。音楽祭の最大の目的は「育(はぐく)む」である。音楽を通じて人を育むことに、世界の一流演奏家の技を楽しんでもらう以上の思いと力を込めている。実はその一点に、世界にまれな、大分が誇れる“理由”がある。
 音楽による子どもの育成といえば、大分県では先に「いいちこグランシアタ・ジュニアオーケストラ」が発足した。昨年十周年を迎えた県文化スポーツ振興財団が「子どもの豊かな感性と仲間づくり」を目的に、ホール付きのオーケストラとして結成。呼び掛けに何と約百人(小学三年―十九歳)もが集まり、さっそくチャイコフスキーの交響曲第5番に挑戦している。県立芸術文化短大など、県内の有力指導者十人の協力も、大学の地域貢献への熱意として評価したい。
 「最近の子どもの能力はすごいですね」と、取材記者は舌を巻いている。さもあらん、これもアルゲリッチ音楽祭の効果の一つととらえたい。この音楽祭にジュニアオケが参加する日は近いかもしれない。
 さて、今なぜ音楽(芸術)なのか。各地で「変革」が叫ばれて久しいが、二十一世紀になっても世界は新しい秩序を築き上げていない。国家や民族の利益を優先する政治外交で「人間優先」の平和な未来はつくれるのか。音楽ならそれはできるかもしれない―という遠大なテーマを、ここ大分で設定できないか。荒唐無(む)稽(けい)と笑われるのは承知で、それをこの音楽祭に求めたい。
 クラシック音楽といっても、元は西洋の教会音楽。約四百五十年前に日本で最初にグレゴリオ聖歌を聴き、歌い、弾いたのは豊後の人々である。その末(まつ)裔(えい)として、私たちは一度クラシックに浸り、その特権と“使命”を考えてみてはどうか。

(清原保雄・編集局次長兼文化科学部長)

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